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610&hari

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【はじめまして】



ある朝広間に集められた彼らは、土方から驚くような報告を受けた。
明日、自分達と遊ぶためにわざわざヨソからやって来る者がいるというのだ。

「なぁ土方さん。その“ちづる”っていうヤツは、明日から毎日ここに来るのか?」
「ああ。色々事情があって昼間だけうちで預かる事になったんだよ。」
「ふぅん……。昼間だけって、その子どこに住んでるんですか?」
「松本医院っておまえらも知ってるだろ?今はあそこで世話になってる。明日は初日って事で昼から来るが、問題なけりゃ次の日からはもう少し早くにな」

「あそこに俺らと同じ年くらいのヤツなんていたか?」
「さあな。あそこに行く時は腹くだしてるとか頭が痛ぇとか、大抵こっちも余裕のねぇ状態だからよ」
さのすけとしんぱちは、過去何度か連れていってもらった時の記憶を辿って首を傾げ。
「ちづるちゃん……ね」
「…………」
その名から大体の事を察したそうじとはじめは顔を見合わせ。
「どんなヤツかな。俺スゲー楽しみ!」
男子が来ると思いこんでいるへーすけは、念願だった“弟分”が遂に出来ると嬉しそうにはしゃいでいた。

◇◆◇

翌朝。全員広間に顔を揃え待っていると、
『さ、履き物はここで脱いで』
『はい!』
松本医院まで迎えに行った井上の声が玄関の方から聞こえてきた。

「きたきた……」
皆の注目が集まる中、
「連れてきたよ」
広間の襖が開けられた    

「ちづるです。えっと……今日からお世話になります!」

『向こうに着いたらこう言うんだよ』と教わってきたのか。
ぎこちなくもきちんとした挨拶を終え、ちづるはぺこりと頭を下げる。
「おう、何か困った事があったらいつでも言え。……で、こいつらがおまえと一緒に遊ぶ仲間だ」
最初にちづるを迎えた土方が、奥に並んで座る彼らの所にちづるを連れてやってきた。

「てめぇら。泣かせたりしたら承知しねぇからな!」
「嫌だな。僕達の事もう少し信用してくれてもいいのに。僕はそうじ、よろしくね」
一番油断出来ないそうじに意味ありげに微笑まれ、土方の眉が顰められる。

「はじめだ……よろしく頼む」
「よろしくお願いします!」
「俺はしんぱち。今度勝手場に潜り込む時一緒に連れて行ってやるよ」
「しんぱち、おまえ初対面から悪巧み持ちかけてどうすんだ……。俺はさのすけ。ま、仲良くしようや」
「はい!仲良くしてください」
それぞれ自己紹介が終わった所で残るへーすけはというと。
「……ちっちぇー」
自分よりもひと回り小さいちづるに大きな目をまん丸にして驚いていた。

「何だこいつスゲー小っちゃい。まだ赤ん坊みたいじゃん」
「あ、赤ちゃんじゃないですよ!」
今日が来るのを心待ちにしていたちづるは、へーすけの言葉に全身を使って反発する。
「……どっかで聞いたような台詞じゃねぇか?」
「だな」
永倉達に笑われ、平助は恥ずかしそうに頬を掻く。

「ちづるちゃんは女の子だからね。皆優しくしてあげるんだぞ」
「はぁーい!」

(お、女の子ぉぉぉっ?!)
ちづるが女子であると見抜けず挨拶していたのは、やはりというべきかしんぱちとへーすけの二人のみ。
井上の言葉に内心大いに驚いてはいたものの、『そんなの当然知っていました』という顔で、皆と一緒になって手を上げる。

女の子は子分に出来ないとへーすけががっかりしたのはほんの一瞬。
(……何して遊ぼう)
頭の中は新しいワクワクでいっぱい。あんなに楽しみにしていた子分の計画も、もうどうでもよくなっていた。

「それとこの子はまだ     ってあの子達はどこに行ったんだい?」
「もうとっくに出て行きましたよ」
山南と話し込んでいた井上が言い忘れた事があったと振り返った時には、既に彼らは広間から飛び出していった後。

◇◆◇

「もういいかーい?」

鬼ごっこでひとしきり走った後、次に選んだ遊びはかくれんぼ。今は鬼になったそうじが皆が隠れるのを待っている。
「あっ、ここにしよう!」
ひとり中庭にやってきたちづるは、植え込みの陰に回りこんだ。

「あいつ……あれじゃすぐ見つかっちゃうじゃん」
「……へーすけ、俺達も隠れている事を忘れるな」
「ご、ごめん。けどあれじゃあ……」
思わず声を上げてしまったのは、へーすけとはじめ。
チョコンとちづるが座り込んだのは、ふたりが登った木のほぼ真下。

「あそこは裏まで回り込まなければ外からでは見えん。第一今から行ったのでは間に合わない。とにかく今は隠れる事に集中しろ」
「了解」



ふたりが小声でやり取りしている間、ちづるは袂にしまっておいた手拭いで首筋の汗を拭っていた。

『汗を掻いたらこの手拭いでちゃんと拭くんだよ』
『はい!』
『あちらで我がままを言ったりしてはいけないよ。良い子にしていないともう呼んでもらえなくなってしまうからね』
『はい!』

言いつけを守って汗を拭き、使った手拭いをまた袂にしまうと、ちづるは眩しそうに空を見上げた。

「楽しいなぁ……」

ひとりで遊ぶことの多かったちづるにとって、汗を掻くほど走り回るというのはとても新鮮。
思い切り息を吸い込めば、秋の日差しに照らされた枯葉の匂いで胸がいっぱいになり、
『しんぱちさん見ぃつけた!』
『クソッ!ここなら絶対大丈夫だとおもったのによ』
耳を澄ませば聞こえてくるのは、松本に診てもらう子供のむずがる声ではなく一緒に遊んでいる彼らの声。
楽しくて楽しくて    
最初の鬼ごっこでいっぱい走って疲れていたちづるは、そのままそこでウトウトしはじめてしまった。

「なぁはじめくん。あいつなんか様子がおかしくない?」
「……」
俯いたままピクリとも動かなくなったちづる。
もしかして具合が悪くなったのか     心配になったふたりは隠れていた木から下りると、ちづるのもとに駆け寄った。
「ちょっと何でふたりとも隠れてないの?」
「それどころじゃないんだって」
中庭まで探しにやってきたそうじが、隠れていないふたりを咎めながら傍までやってきた。

「この子どうしたの?」
「分からん。ここに座り込んだ後、特に変わった様子はなかったが……」
「ぅ……う、ん……」
「ハッ気がついた!おい、大丈夫か?」
「……眠たくなりました」
「へ?っておい……おい!」
「……寝ちゃったね」

一瞬目を覚ましたものの今の自分の状況を伝えるのが精一杯。
植木の陰で膝を抱えるという何とも窮屈な姿勢のまま、ちづるは本格的に眠ってしまった。
困ったのははじめにへーすけにそうじ。
「眠くなったと言っていたな……」
「けどさ、遊んでる最中に眠くなるか?」
「熱でもあるのかな?」
こんな明るい時間から眠くなる事のない彼らは、互いに顔を見合わせるばかり。
「俺ちょっと誰か呼んでくる!」
へーすけがクルリと踵を返したその時、
「やれやれ、ここにいたのかい」
井上が中庭に姿を現した。今まで捜し回っていたのか、その額には汗が滲んでいる。

「源さん!ちづるが……っ」
「大丈夫。心配いらないよ」
彼らが心配そうに見守る中、井上はちづるを抱き上げ中庭を横切ると、その小さな身体を縁側にそっと優しく下ろした。
「お、いたいた」
先に見つかっていたさのすけとしんぱちも、なかなか戻ってこないそうじを捜し求めて中庭に現れたついでに合流する。

「ちづるちゃんどうしたんだ」
「シッ。この子はね、まだきみ達よりも小さいから。こうしてお昼寝をしないと疲れてしまうんだよ」
「昼寝……?」
そんなもの生まれてこの方した事のない、逞しい生活をしてきた彼らが一斉に首を傾げる。
「女の子だから、色々と気を遣わなけりゃならない事もあるかもしれない。だけど仲良くしてあげるんだよ?」
「おう!このしんぱち様に任せ    
「「「「シィィィィッッ!!」」」」

へーすけは赤く色付いた葉を取り出すと、寝ているちづるの傍に置いた。
先程まで登っていた木の葉。女の子ならきっと赤い物が好きだから、後であげようと一枚摘んでおいたのだ。
「……こいつ、ここ気に入るかな」

『仲良くしてください!』

広間で初めて顔を合わせた時のちづるをそれぞれそっと思い出す。
「この子が目を覚ますまで、僕達向こうで待っていようか」
「だったらちづるも一緒に遊べる遊びを考えようぜ」
「賛成!」

    早く目を覚ませばいいのに

もう一度彼女の寝顔をチラリと眺めると、彼らは静かにその場から離れていった。



【 おしまい 】






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