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610&hari

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【 憂鬱な天気の過ごし方(前編) 】





来る日も来る日も 雨、雨、雨    

「うあぁぁぁっ、つまんねーっっ!!」
ドタドタ ジタバタ ゴロゴロ
畳の上にデンと寝転び、へーすけは身体の全部を使って仲間に不満を訴える。

「よせ、へーすけ……埃が立つ」
「おまえ昨日もそれやって、山南さんに掃除させられたばっかじゃねぇか」
「そんなに暇だって言うなら、さのさんと一緒に巡察連れて行ってもらえば良かったのに」
「そうだけど……」

『なー源さん、ちづる今日は何時に来るって?』
『おや、言ってなかったかい?あの子なら今日は来ないよ』

てっきり今日も来るとばかり。
ちづるが来ないと知らされたのは、さのすけが巡察隊と出掛けた後。
「ちづるちゃんがいねぇのにままごと遊びやっても仕方ねぇしな」
ままごと遊びもお手玉も、ちづるがいてこその室内遊戯。
いつも屯所で顔を付き合せている男だけでやった所で、面白くもなんともない。
毎回何だかんだ言いつつ周囲を上手く言いくるめ旦那の役を掴んでいるさのすけが、あっさりその役を放棄し巡察に付いて行ったのもそんな理由があったから。

「そういえばひじかたさんは?」
「土方さんと一緒に外出だってよ。ったく、俺らにひと声掛けてくれりゃいいのに」
「今朝、大人達がもうすぐ健康診断があると言っていたな」
「……ふーん」
「誰かこの雨を止めるか、俺をどこかに連れてって!」
『健康診断が近い』それすなわち、土方の外出先が松本医院である可能性は十分高い。
そこまで深読み出来ずに尚も畳の上でもがき続けるへーすけをよそに、そうじの目がスッと眉月のように細くなる。
「つまんねー、ひまだー、つまんねー、つまんねーっ!」
「お、煩せぇと思ったらおまえらこんな所に溜まっていやがったのか」
本日非番の永倉が彼らのいる部屋に現れたのは、へーすけの『つまんねー』を数えるのに両手の指だけでは足りなくなった頃の事。

「ちょっと新八さん、僕らの事、落ち葉か何かのように言うのやめてくれません?」
「嫌だねぇ、枯葉のようにカサカサに乾いたつまんねぇ毎日」
「新八さん、人の話聞いてます?」
「そうじ、今日この人には何を言っても無駄だ」
「今日?今日って何かあんのかよ」
「よくぞ聞いてくれました!」
「や、止めろ!馬鹿力で振り回すんじ    
腕を離されたしんぱちが、遠心力で部屋の隅まで飛んでいく。
へーすけにとっては恨めしい雨も、この男には関係ない。
給金を貰った直後の非番。口煩く注意してくる土方も外出     これがはしゃがずにいられようか。
哀れ犠牲となったしんぱちは、いまだぶつかり崩れた座布団の山から出て来ない。

「俺は今から潤いを求めに出掛けてくるから、おまえらは畳の目でも数えて過ごしやがれ」
ここに顔を出したのは、単に有意義な非番の過ごし方を誰かに自慢したかっただけ。
「なんか……大人げないね」
「……ああ」
「何とでも言ってくれ。じゃあな!……うぉ?」
立ち去ろうと背を向けた永倉の腰からぶら下がる帯の端を、へーすけが素早くパシッと掴む。
「なぁ新八っつぁん、そこ俺も一緒に連れてってくれよ!」
「な!無理に決まってんじゃねぇか」
「俺、新八っつぁんが一番好きなおかずは絶対手出さないって約束するから!」
「だ、だから……そういう問題じゃねぇんだよ……」

以前平助に連れていってもらった時の事を思い出しながらのへーすけの無邪気なお願いに、永倉があからさまに狼狽える。
芸者との戯れに彼らを連れて行ったなどと土方達に知られたら、きっとただでは済まされない。

「悪い、俺の事は忘れてくれ!」
「あーっ、新八っつぁん!!」
へーすけの手を振りほどき、永倉は足早に廊下を去っていく。
「自分から押し掛けてきたくせに何言ってるんだか」
「……勝手だな」
「おやおや、皆ここに居たのかい」

いくばくかの紙を手にした井上が、彼らの所にやってきた。

「この雨が止むよう、てるてる坊主を作ってみてはどうかね」
「えー、てるてる坊主ぅ?」
「ははっ、ちづるちゃんでもいれば喜んで作ったんだろうけど」
「だがこうしていても退屈なだけだ」
井上の持ってきた紙を手に取り、はじめがぽつりと静かに呟く。
「作ってみないか……皆で」

こういう物は無理にやらせては駄目。後は彼らの自主性に任せよう。
はじめが紙を手に皆に呼びかけるのを確認したところで、井上は部屋を出て行った。

じっと辛抱強く待つはじめに根負けしたのか、そうじが肩を竦めながら口を開いた。
「どうせならちづるちゃんや今いない人をあっと言わせるようなすごいヤツ作ってみようか」
『すごいヤツ』
その言葉に、てるてる坊主作りに何の興味もなかったへーすけの目が輝き出す。
「おい、だったらこれで作ってみようぜ」
ようやく部屋の隅から戻ってきたしんぱちが手にしていたのは、崩れた座布団の傍に積まれていた洗濯物の一部。

「これ、新八さんがお風呂から出て使う手拭いでしょ」
「ああ。そんなちっとばかしの紙じゃ大したモンは作れねぇだろ」
「しかし、さすがにそれは拙いのでは……?」
「構うもんか。どうせ今日だって帰って来ねぇに決まってんだからよ」
しんぱちの言葉で、先程の浮かれきった永倉の態度が思い出される。
「けどよ、その手拭い使ったとして、頭の部分、中に何詰めるんだ?」
貴重な紙をこれ以上くれと井上に頼みに行くのは気が引ける。
だからと言ってろくに詰め物の入っていないてるてる坊主では格好がつかない。
「しんぱち、せっかくだが    
「まぁそう慌てんなって。詰め物だろ?これ使えばイイじゃねぇか」
「「「っっ!!?」」」

ジャーンと取り出されたのは同じく洗濯して畳んであった永倉の     ふんどし。
放り投げられた事が、よほど頭にきていたのだろう。
そしてそれは腕を振り払われたへーすけにしてみても同じ事。
「いいねぇ!早速今から作ろうぜ!!」
「じゃあ僕、墨と筆を借りてくる」
いつもなら止めに入るはじめも、今日は積極的に手を貸している。
それだけ、あの大人げない態度に呆れてしまったということか。

かくして。
彼らのてるてる坊主作成は、今ここにこうして始まった。


くそぉ……っ











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