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610&hari

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【 憂鬱な天気の過ごし方(後編) 】





使われている手拭いも、その中に詰められている褌も永倉の物。
「へーすけ、ちょっとここ押さえてくれ」
「了解!しんぱっつぁん、もう少しきつく縛った方がイイんじゃね?」
「だな」
多少胴の部分がびろびろと長くはなるものの、なんとかてるてる坊主らしい形になっている。
へーすけとしんぱちが見事な協力技で作り上げているその傍らでは、そうじとはじめが“小物”の部分を作っていた。



「はじめ君、そろそろ乾いたっぽくない?」
「いや……まだだ」
はじめが真剣な目で見つめているのは、一面墨で真っ黒に塗りつぶした紙。
「はじめ君て優しいよな」
「……そんな事はないと思うが」

墨は洗ってもなかなか落ちない。
幾らなんでも直接手拭いに目鼻を書いては気の毒だろうという武士の情け(?)から生まれたひと手間。

「そこまで気ぃ遣ってやる必要なんかねぇと思うぜ。むしろこの手拭いを墨ん中浸しちまって、目鼻を白抜きみてぇにするってのもありじゃねぇか?」
「だよな!」
「……墨に浸した手拭いを絞るのは誰の役目だ?」
「う゛っ」
「そりゃちっと厳しいな」
「ねぇ僕、今ちょっと思ったんだけど」
「なんだ」
それまで一歩離れた所でこの様子をみていたそうじが、三人の会話に口を挟んだ。
「てるてる坊主って、顔書くんだっけ?」
「「「…………」」」

『何を今更』
紙に塗った墨が乾き次第、鋏で切ろうという段階になって何て事を言い出すのか。
塗りつぶすのだって楽じゃない。現にはじめの手は、既にところどころ墨が付いて汚れている。
大体、墨や筆を持ってきたのは自分じゃないのか。

「そうじ……」
「ま、まぁ今回俺らが目指してんのは、『あっと言わせるようなすごいヤツ』だから、な?」
「お、おうよ!」
へーすけ達になだめすかされ、はじめは喉元まで出かけた言葉を呑み込むと、手にした鋏をおもむろにそうじに向けて差し出した。
「ふーん……僕に切れって言うんだ?」
「……あんたはまだ何もやっていないだろう」
皆で作ると言ったからには彼にも何かやってもらわなくては。
「……ま、いいけどね」
はじめの生真面目さに肩を竦めながらも、そうじは鋏を受け取ると、器用に紙を切り始めた。

チョキ

目と眉を

チョキチョキ

鼻と口を

切られた端から、はじめが米を潰して作った糊を裏に塗り、
「しんぱっつぁん、これ目」
「おう」
「こっちも目」
「おう」
へーすけとしんぱちが手拭いに貼っていく。
「よし、完成!」
「ちょっと待って。最後にこれ」
小さく切った紙をふたつ、眉の間にぺたりと貼って    
「だあっはっはっは!!」
「何だよこれ!やべー超そっくり!」
「…………そうじ」
「ん?」
最後に貼った紙のせいで、これはもうどうみても土方、もしくはとしぞうにしか見えない。
「そうだ!だったら徹底的にやろうぜ!」
雨の中、へーすけはわざわざ玄関から庭へと回り、何か掴んで戻ってきた。

「髪の毛っぽく後ろで縛ってるみたいにくっつければさ!」
「これは……」
「菖蒲の葉……だね。勝手に抜いちゃって、怒られるんじゃない?」
「へーきへーき。ちょっとちぎってきただけだし」
「……」
それは抜くより目立つのではないかという懸念を抱えるはじめの前で、てるてる坊主に“髪の毛”が付けられる。

「今度こそ完成!」
「っしゃー!」
こうして土方もどきのてるてる坊主は、へーすけの弾む声で高らかに完成を宣言された。


◇◆◇


へーすけ達がせっせとてるてる坊主を作っていたのと同じ頃、としぞうは土方と一緒に松本医院を訪れていた。
『話が終わるまで二階でちづると遊んでろ』というわけで、今はふたりで床におはじきを広げて遊んでいる。
としぞうの心情としては、袂に忍ばせてきた本を読んでいたいというのが本音だが、
「としぞうさんからどうぞ!」
「……おう」
遊び相手が来てくれたと、こんなにあからさまに喜ばれてしまえば、とてもじゃないが言い出せない。

「そういや今おまえがそこに並べたおはじきには、何か意味でもあるのか?」
「これですか?」
青、赤、緑、黄色に橙。
一列に並べられた色とりどりのおはじきを、千鶴は笑いながら指差した。

「これは皆さんです」
「皆?」
「はい!青いのがはじめさんで、黄色がへーすけ君    
今日は一緒に遊べないけれど、皆がここにいるつもり。
「としぞうさんはここにいるので、今日はこれはお休みです」
そう言いながらとしぞうの横にそっと置かれたのは、紫色の一粒のおはじき。

『断らなくて良かった』

「どうかしましたか?」
「いや……何でもねぇ」
先程大人達に二階で遊んでくるよう言われた時、自分は嫌な顔を見せなかっただろうか。
「としぞうさん、弾いてください」
「ああ」

明日は晴れて、彼女が屯所に来られるといい。
としぞうはそんな事を思いながら、おはじきを指でピンと弾いた。



【 その日の夜 】
「てめぇら……」
「あ、外したら駄目ですよ。明日晴れてちづるちゃんが遊びに来れますようにって願いごとしてあるんですから」
「あれ?今こっちに新八っつぁん来なかった?」
「……このてるてる坊主を見て、庭に転がり落ちて行った」
「あーあ。もう泥まみれのグシャグシャじゃん。おーい、新八っつぁん」
「ヒッ、ヒイィィッ!出たっ許してくれぇぇぇっ!!」
「は?あれ、あの人裸足のまんまこの雨ん中どっか行っちまった」
「放っとけばいいんじゃねぇか?」
「おい、新八のヤツどうしちまったんだ? 俺を見て『許してくれ!』とか何とか言ってたぞ」
「げっ、土方さんだ」
「やべっ、おい逃げるぞ!」











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