UUTT * Side_Hari

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【心をこめて】





「なぁはじめ、この辺でへーすけ見なかったか?」
「……いや」
「そっか。あいつ最近時々コソコソどこかへ行ってるみたいなんだけど何か聞いてねぇか?」
「…………いや」

人の裏を読む事に長けていないしんぱちは、その曖昧な返事を『俺は何も知らない』という意味に捉え、
「ったく。あいつ絶対俺に隠れて旨いもん食おうとしてるに決まってんだ!」
そう息巻くと、へーすけの姿を探すべく部屋を飛び出していった。

「……行ったぞ」
「……あぶねー、はじめ君匿ってくれてありがとな!」
何か大切そうに手に持ったへーすけが、はじめの後ろにある押入れの中からゴソゴソと出てきた。

「あとちょっとで出来んのに、今ここで見つかってたまるかってーの」
そう言うと手にした作り途中の干し柿を、自分達の目の高さまで持ち上げる。
「……あと二・三日といったところだな」
「食べてくれっかなぁ……」



事の発端は唐突にはじめに投げかけられた質問から。

「俺ってさ、ちゃんと大事にされてると思う?」
何の話か判らないでいるはじめが反応出来ずに困っていると、へーすけが言いづらそうに言葉を足した。

「いや、だから……。俺と平助って、はじめ君からみてうまくいってるように見える?」

皆でワイワイやっている時間はとても楽しいけれど、へーすけはある時気づいてしまったのだ    
『自分と平助は二人だけで過ごした記憶があまりない』という事に。

そうじと沖田のように遠慮なく言いたい事を言い合える間柄でもなければ、はじめと斎藤のように言葉にせずとも目だけで互いの思いを読み取れるようにもなっていない。
一度気になってしまうともう駄目。寝ても覚めても頭からこの事が離れなくて落ち着かない。

『はじめ君。ちょっと聞きたい事があるんだけど……』
尋ねた相手がなぜはじめだったのかはへーすけ自身よく分からない。
たまたまそこを通りがかったのがはじめだったからなのか、はじめと斎藤のように自分達も近しい間柄になってみたいと思っていたからか。
理由はどうであれ真剣に耳を傾けてくれたはじめに、へーすけは自分の気持ちを洗いざらいぶちまけた。

「……ならば、ヤツが一人の時に話しかければいいだろう」
「話しかければって簡単に言うなって。……そんなのキッカケがないと難しいに決まってんじゃん」

そこからどう話が転んだのか、いつの間にかその“キッカケ”の為に干し柿を手作りする事になり。
いまいち作り方が分からないというへーすけを、今日まではじめが手伝ってやっていた。

◇◆◇

    三日後。
へーすけは屯所の廊下を走っていた。

せっかく食べ頃の時期を迎え、待ちに待った“キッカケ”の日が訪れたというのに、よりによって平助を探している間に“今一番会ってはいけない”しんぱちに見つかってしまったのだ。
「食われてたまるかっつーの!」
幸い原田に助けられこの時は事なきを得たのだが。
持ち前の気前の良さが災いし、せっかく守り抜いた干し柿を原田にひとつ分けてしまった。

手元に残るはあとひとつ。

いくら思いつく限りの場所を探し回っても、どこにも平助の姿が見当たらない。
よく考えてみれば、平助が干し柿を好きなのかも判らない。
「……一緒に食いたかったんだけどなぁ」
門の外ぎりぎりまで出た所で、もう一人で食べてしまおうかと思ったその時。

「あれっおまえこんなとこで何してんだ?」
その声に顔を上げれば、今まで散々探していた平助が目を丸くして見下ろしていた。
「……もしかして、俺の事お出迎えしてくれてたとか」
「お出迎えっつーか、その……」
咄嗟にうまい言葉が口から出ずしどろもどろになっているへーすけの目の前に、さっと平助がしゃがみこんだ。
「せっかくだからさ、たまには二人でちょっと散歩でもしようぜ」



久しぶりに乗る平助の肩。
気になり始めたあの日から、ずっとこうして歩きたいと思っていた瞬間。本当は色々と話したい事もあった筈なのに    
何も頭に浮かんでこないほどドキドキしていたへーすけには、そこから見える光景を楽しむ余裕など全く残っていなかった。
川を渡ってくる風が二人の髪をサラサラと撫でてゆく。気付けばいつの間にか、近くの河原の土手に下りていた。

「なぁ、へーすけ」
ふいに話しかけられ、へーすけの身体がビクッと揺れる。
「驚き過ぎだろ。……その手に持ってるのって食えんの?」
その言葉に背中を押されるように、へーすけは手にした干し柿をオズオズと差し出した。

「これ……俺が作ったんだけど……食う?」
「おまえが作った?マジで?!イイじゃん、食おうぜ!」
「一個しかないから……平助食っていいよ」

がっかりしているへーすけの気持ちを肩の上で感じながら、平助はケラケラと明るく笑う。
「何言ってんだか。いいからそれちょっと貸してみろよ」
そう言ってへーすけの手から受け取ると、手にした一個の小さな小さな干し柿を更に小さく二つに分けて    
「ほら、こっちがおまえの分な」
そう言って土手に腰を下ろし、隣にへーすけを座らせた。


「へぇ、ちゃんと干し柿になってる。すげぇじゃん、これ本当におまえが作ったの?」
「はじめ君に教わりながらだけどね。……けど本当にちゃんと俺が作ったんだよ」

柿を取るのがどんなに大変だったか
今日までしんぱちの目を誤魔化すのにいかに苦労したか
どうして柿がひとつだけになってしまったのか    

先ほどまでの緊張が嘘のように、へーすけの口から言葉がポンポン飛び出してくる。
(……今なら)
今なら、聞いてみたかった事もサラッと聞けるかもしれない。

「……なぁ平助」
「んー?」
「その……さ、俺の事好き?」

その問いかけに対する答えはどんなに耳を澄ましても聞こえてこない。 今の今まで楽しかった気持ちがシュルシュルと萎んでいくのを感じていたその時、
「うわっ!」
しょんぼり項垂れていたへーすけの身体が、突然平助の手で持ち上げられた。
「風冷たくなってきたし、そろそろ帰ろうぜ」
来た道と同じように肩に乗せられながら聞かされたのは、ずっと与えて欲しいと願っていた言葉。
「ばっかだなぁ……好きに決まってんじゃん。んなこといちいち確認すんなよ」


帰り道、二人の間でどんな会話が交わされていたのか誰も知らない。
ただ戻ってきたへーすけは『はじめ君ありがと!俺すげー感謝してる!!』とはじめに抱きつかんばかりに礼を言い、そのへーすけの様子をみたはじめは、万が一の為にこっそり作っておいた干し柿をそっと隠し。

平助とへーすけ。
二人揃って散歩に出かける事が増えたのは、間違いなくその日が“キッカケ”だった。




【 終 】









このお話は、武藤さんの描いた干し柿を手にしているへーすけを見てコソッと書きましたφ(⌒▽⌒〃)





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