UUTT * Side_Hari

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【かくれんぼ】





バタバタバタバタッ……

中庭に向いている縁側を、幾つもの小さな足音がこちらに向かって走ってくる。
話をしていた斎藤と原田は顔を見合わせ、近付いてくる足音の方向に視線を送った。

「ちょっとしんぱっつぁん!!何で俺と同じ方向に逃げてくるのさ」
「うるせー!へーすけこそ俺の行く手を阻もうとするんじゃねぇ!!」
互いに罵り合いながら、しんぱちとへーすけが2人のいる部屋の前を駆け抜けていく。
どうやら屯所にいる何人かで、かくれんぼをしているらしい     と、その後ろから。

パタパタパタパタ……

先程のへーすけ達より更に小さくてずっと軽い足音が遅れてこちらに向かってくる。
その足音の主は、一旦二人のいる部屋の前を通り過ぎようとしてから立ち止まると、部屋の中に入ってきた。

「なんだちづる、みんなでかくれんぼしてんのか?」
「はいっ!」
一緒に仲間に入れてもらえて嬉しいと笑いながら、ちづるはキョロキョロと部屋の中を見回している。

「……隠れる場所を探しているのか?」
「はい……」
困った顔をしてなおも辺りを探した結果、ちづるは部屋の隅に積んであった掛け布団の中に潜りこんだ。

なかなかの名案かとも思われたが、彼女の長い耳の先がほんの少しだけ布団から覗いてしまっている。
隠れる事で一生懸命のちづるは、耳が出ている事に気付いていないのだろう。

彼らの遊びにあまり自分達大人が手出しすべきではない。
原田達がそのまま様子を見ていると、縁側に物音ひとつ立てず、はじめが姿を現した。
どうやらこのかくれんぼ、今ははじめが“鬼”らしい。
はじめは部屋の入り口に立ちサッと部屋の中に目を走らせ     布団から覗く耳に辿り着くと驚きに目を瞠った。
鬼が来ている事に気付いていないのか、ちづるの耳は布団の外の音を拾おうと暢気にピコピコ動いている。

今ははじめが鬼

『……早々見つかっちまったな。』

原田と斎藤が仕方ないと目で会話をしている間にも、はじめはそっと足音を忍ばせて布団へと近付き。
ちづるの耳が隠れるまで布団を引っ張ると、ぽんぽんと二度三度優しく叩き……静かに部屋を出て行った。

もそもそ……と、ちづるが布団の中から這い出てきた頃には既にはじめの姿はなく。
状況が見えずに小首を傾げているちづるに原田が優しく声を掛ける。
「良かったな、ちづる。おまえさんもうちっとだけ隠れてていいんだってよ」
その言葉にパァッと花が咲いたような笑みを零しながら、ちづるは再び布団の中へと潜り込んだ。

けれど
やっぱり
またしても
耳の先がほんの少し布団から顔を覗かせている。

斎藤はやれやれと言った感じで立ち上がると、先程のはじめと同じように布団を引っ張って耳を隠してやった。
「……言いたい事があるのならはっきり言え」
元いた場所に座りなおす斎藤を、原田の意味ありげな笑みが待ち構えている。
「いや、おまえもはじめも『ちづる』と名の付くもんに甘ぇなと思ってさ……」
「別に俺は……」
気まずそうに視線を逸らす斎藤に、原田は屈託のない声をかける。
「良い事だと思うぜ?男は女を守ってなんぼだからな」

しばらくすると、はじめが戻ってきた。ちづるの隠れている布団に近付くと、
「……出て来い。おまえ以外は全員見つけた」
そう言いながらそっと布団を捲り上げた。
言われてみれば、廊下の奥からこちらに向かってくる声が聞こえる。
「ったく。だからしんぱっつぁんのその肉の匂いがやばいって言ったじゃん!!」
「仕方ねーだろ、見つかっちまったあとでごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ」
どうやら次の鬼はあの二人のうちのどちらかが務める事になったらしい。
「……行くぞ」
「はいっ!」
ちづるは斎藤の手を借りて布団から這い出ると、彼の後を追うように集合場所へと向かった。

そして始まった第二回戦。
先程と同じように今度はまずしんぱちが一人で縁側を駆け抜け。
続いてはじめに手を引かれたちづるがまたこの部屋に入ってきた。

「……匿ってやってくれ」
同じようにまた布団に隠れるのかと思って見ている斎藤の元に走ってきたはじめはちづるの身をついと押し出し。
そのまま斎藤の返事も待たずに布団の中に丸めた座布団を一枚仕込んで部屋を出て行ってしまった。
いくらはじめの頼みとはいえ、一体この部屋でどうやって匿ってやったらいいのやら。
大きな目でじっと見上げてくるちづるの真っ直ぐな瞳が期待できらきらと輝いている。

「そうだ、斎藤……おまえ胡坐かけよ」
「……?」
ワケの判らぬまま言われたとおり胡坐をかく斎藤の膝の上に、原田はちづるを抱き上げて座らせる。
「これでおまえは壁の方を向けば完璧だろ」
そう言って自分も座り位置を直すと原田は愉快そうに二人の姿を眺めた。

「ちづる、一緒に遊んでもらって楽しいか?」
「はいっ!」
「……ちづる、耳を動かすな。むず痒くて困る」
パタパタと動く耳に顎の下をくすぐられながらも、斎藤はそれこそ全身を使って見事ちづるを隠し通し。

「こんなのすぐ見つかるっつーの!…………はぁっ?座布団?!」
部屋の真ん中では意気揚々と布団を捲り、出てきた座布団をバシバシと叩いて悔しがるへーすけの姿があった。
今度はへーすけが鬼



【 終 】







『ちづるって自分の長い耳を絶対扱いきれてないよね』
……そんな雑談をまとめたら、武藤さんがイラストを付けてくれましたφ(⌒▽⌒〃)






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