UUTT * Side_Hari

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【本当は触れてみたかった】





「ねぇどうしてなんだと思う?」
「……何がだ」
ちらちらと雪の舞う中、『はじめ』は隣を歩く『そうじ』の声に応える。

「どうしてあの子は、僕達と一緒に屯所で生活しないんだと思う?」
「知らん。全ては副長が決めた事だ」
「要するに僕らと一緒に寝起きさせる訳にはいかないからっていうんでしょ?」
『判っているなら聞くな』と眼で語るも、そうじはそれをサラリとかわす。

だったら雪村千鶴と一緒の部屋に寝起きさせれば良いとも思うのだが、副長にも何か考えがあっての事だろう。
……単に千鶴の寝相が悪いだけなのかもしれないが。
ちづるは普段新選組が懇意にしている松本良順という医者の家に預けられていて、こうして誰かが迎えに行ってやる。
今日そのお役目を預かったのはそうじとはじめだった。

「いいか?今日は雪がチラついているからな。あまり乗り気じゃなさそうだったら無理して連れてきたりすんなよ」
土方の注意を煩そうに聞くそうじの横で、神妙な顔で話を聞くはじめ。
「今日は特に冷え込みが厳しい……気をつけて行ってこい」
首に巻いているものを斎藤に直してもらって     二人は今こうして良順の家に向かって歩いている。


良順宅に到着すると彼は往診の準備をしている最中で、二人の姿を見てホッとしたように声をあげた。
「こりゃいい所に来たな。朝の分は飲ませたから……これは昼の分でこっちが桶代わりの小鉢な」
それぞれ手に持たされた薬包と小鉢に首を傾げ、揃って良順を見上げる。

    良順の話によると。
家人が皆出かけている時に合わせてしまったように、ちづるが昨夜熱を出した。
そんな日に限って朝から急な往診が入ってしまい、彼女を一人残しておく訳にもいかず困っていた所にちょうど二人が現れたのだという。
「屯所の方には出掛けに声掛けておくからよ。なるべく早く帰ってくるから頼むな」
良順はそう二人に声をかけると、慌しく飛び出して行った。


「……本当だ、眠ってる」
障子をそっと開けたそうじが呟く。
いつもなら迎えにきた者の足音がしただけで嬉しそうに部屋から顔を出すちづるが、今日は布団の中に入ったまま。
今朝方薬が効き始め、ようやく眠りについたばかりだという。
まだ熱が高いのか、赤い顔をして苦しそうに息をしている。
朝の薬は飲ませたというし特にやる事も見当たらない     二人は仕方なく、彼女の眠る布団の脇に並んで座った。

「今日迎えにくるのがしんぱちさんじゃなくて良かったんじゃない?」
『どうしてだ?』と目顔で問いかけるはじめに、そうじは事も無げにこう答える。
「だって熱出して寝込んでるこの子の横でも、あの人平気で肉とか食べてそうだもん」
その姿は容易に想像する事が出来、今日ここに来たのが自分達で良かったとはじめもしみじみ思った。

ふと気がつくと、布団から尻尾がはみ出している。
……はみ出しているというより、暑くて体温調節のためにわざと布団から出しているのか。
布団を掛け直してやっても、すぐに布団から出てきてしまう。
くたりと力なく畳の上に横たわるその尻尾の様子からも、今の彼女の体調が判るような気がした。

はじめがちづるの額に乗せている手ぬぐいを濡らしてやっている時。
『うぅ……ん』
急にちづるが苦しそうに小さな声をあげた。見れば寝顔がほんの少しだけ眉をひそめている。
どうしたのだろう……と、ふと隣に座るそうじの手元に視線を向けると。

「ねぇはじめ君、この子の尻尾僕達と違ってすごいフカフカしてるよ」
楽しそうに邪気のない笑みを浮かべながら、そうじがちづるの尻尾をモフモフと握っている。
「なっ!?……止めろそうじ、手を離してやれ」
「少しくらい良いと思うんだけど」
不満そうに言いながら、そうじは渋々その手を離す。
それでも余程触り心地が良かったのか、はじめの目を盗んではモフモフと握ってその感触を楽しんでいる。
その度にちづるの尻尾は困ったようにパフン……とそうじの手から逃れようと力なくもがく。
しばらくの間黙認していたはじめがしびれを切らしたように立ち上がった。

「そうじ……場所を交替しろ。お前は彼女の手ぬぐいを濡らしてやれ」
「僕別にここで問題ないけど?」
「いいから替われ。これ以上お前のやりたいようにさせていたら彼女が起きてしまう」
「そんな事言っててさ、本当ははじめ君も触りたいんじゃないの?」
「……俺はそんな事はしない」
「ふぅん……ま、いいけど。もう十分楽しませてもらったし」
じろりとはじめに睨まれて、そうじは肩を竦めながら場所を替わった。

しばらくして小鉢の水を入れ替えにそうじが出て行ったため、部屋にははじめとちづるの二人きり。
熱も少しずつ引いてきたのか、朝はじめ達が顔を出した時に比べ幾分寝顔が穏やかになっている。
寝返りを打って掛け布団の上に出た手を中に入れてやろうとすると、触れた彼女の手がそっとはじめの手を握ってきた。

柔らかい小さな手。
身体だって、はじめ達に比べ一回り以上小さい。
こんなに小さい者が一人だけ別の場所に預けられていて心細くはないのだろうか。

寝顔を見ながらそんな事を思い耽っていると、ふいに何かが膝に当たる感触があった。
見れば先程散々そうじに玩具のように扱われた彼女の尻尾が、はじめの膝に触れている。
「…………」
しばしの間じっと尻尾を見つめていたはじめは、そっと尻尾に手を伸ばしてみた。
そうじの言う通り、自分達のそれに比べ柔らかいフカフカした手触り。
最初は一本の指で恐る恐る触れていたが、次第に指の数が二本、三本と増えていき……そっと掌全体で撫でてみる。
その心地よい感触は触っている者の眠気を誘い出す程。
ここにへーすけがいたら『俺これ抱っこして寝る!!』と騒ぎ立てて大変だったに違いない。
そうじの真似をしてモフモフと握ってみる。
『……ほぉ』気持ちが良くて思わずはじめの目元が緩んだ。

    と、その時。

何かの気配を感じ辺りにサッと目を走らせると……障子の隙間から覗くそうじの目とぶつかった。
『面白い物を見てしまった』という満足感でキラキラと妖しく光輝くその双眸は、確実にはじめの手元を捉えており。
はじめが手を引っ込めるのとそうじが部屋に入ってくるのはほぼ同時だった。
そうじは何事もなかったような顔をしてちづるの額に手ぬぐいを乗せてやり。
はじめも内心の動揺を押し隠して隣に座る。

「僕が戻ってきたからって止める事ないのに」
「…………」
「あぁそっか。起きちゃったら困るもんね」
「…………」

『はじめ君、もっと素直になればいいのに』
明らかに楽しんでいる色を含んだその声に対して
『こいつの前でだけは絶対本心など見せてなるものか』
とはじめが思っている事など知ってか知らずか。

苦々しげな顔で座るはじめの横で、クスリと楽しげにそうじが笑った。



【 おしまい 】







『ちづるの尻尾がリスみたいにもさもさしてたら可愛くない?』このお話はそんなやりとりから生まれました。
『それってこんなカンジ?』と武藤さんがイラストにしてくれたのがこちらになります(´ω`*)














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