UUTT * Side_Hari

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【 一致団結 】





勝手場から聞こえる大人達の話し声。
水を貰いにきたへーすけとちづるは、こっそり中を覗きこむ。
井上が誰かと喋っている。もっとよく聞こえないかと二人は耳をピコピコと動かした。

『この長雨で、どの店も仕入れがままならないようです』
『かといって食べずにいられるわけでもないし。まったく。頭が痛いねぇ』

「頭痛いって……」
「源さん具合悪かったのかよ……」
いつもニコニコ優しい井上。
『まぁまぁ、もうその辺でいいじゃないか。あとは私の方から言ってきかせるから』
山南や土方から怒られている時、間に入ってその場を収めてくれる井上が皆大好き。
その井上が悲しそうな声で頭が痛いと訴えている    
「みんなに教えてやろうぜ!」
「うん!」
水を貰いに来た事も忘れ、二人はピューッと庭に向かって走って行った。


◇◆◇


「おいしんぱち、そこの桶こっちに運ぶの手伝ってくれ」
「あいよ!」

『今日は源さんを休ませてあげよう!』
これがへーすけとちづるの知らせを受けて皆で相談して出た結論。
『風呂掃除と廊下の雑巾掛け、あと庭掃除……と』
普段井上がやっている仕事を思いつく限り挙げていき分担した結果、さのすけとしんぱちが風呂掃除の担当に。

「これ終わったら次庭掃除があるから急がねぇとな」
「だな」

見事な連携で脱衣所に移動させていた洗い桶を浴室に戻す。
いつもの彼らなら、桶を投げてふざけたり、そこら中びしょびしょにして騒いだりしてもおかしくないのだが、
「そこちょっと曲がってねぇか?」
「そうか?」
今日はひとつひとつきちんと丁寧に重ねていく。

『井上が普段やっているのと同じように』
絶対ふざけたりしない。騒いだり途中で投げ出した者は夕食抜き     それが彼らの決めた約束。

食事の時間を中心に一日が回っていると言っても過言ではないくらい食べる事の大好きなしんぱちにとって、夕食が抜かれるのは死活問題。
勿論井上にも早く元気になってもらいたい。彼の場合その気持ちの片隅に『夕食のために頑張る』という思いがほんの少し混じってしまうのは、この際大目に見るべきかもしれない。

「お、おまえらが掃除やってんのか」
「おい見ろよこの銀杏。すげぇだろ」
外から戻ってきた原田と永倉が、両手一杯の銀杏を持って脱衣所に顔を出した。

「クサッ!そんなモン持って入ってくんじゃねぇよっ」
「これが火で煎って塩を振ると美味いんだって」
「源さんにやってもらおうぜ」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇよ!何の為に俺らが掃除やってると思ってんだ」
事情を知らない大人達の言葉に、しんぱちが抗議の声を上げた。

「な、何だよ急にデカい声出しやがって……」
「俺らだけじゃねぇよ。へーすけやちづるちゃんだって頑張って掃除やってんだ。」
「だな。その位自分達でやれよ。ついでに今日の食事当番もやってくれ」
「は?おい、ちょっと、おまえら……っ!」
原田と永倉を無理矢理追い出し、入口をぴしゃりと閉め。
「ったく。あいつらホント馬鹿だよな」
「だな」
二人は脱衣所の床を掃きはじめた。



さのすけ達が風呂掃除を頑張っている頃。
こちらの廊下では雑巾掛けの担当になったへーすけとちづるが一生懸命頑張っていた。

「ちづる、ほら」
「ありがとうへーすけ君!」
ちづるの使っている雑巾を、きれいに洗った雑巾と交換してやるへーすけ。
固く絞る事があまり得意ではないちづるは嬉しそうにその雑巾を床に広げると、再びタッタッタッタッと床を拭きはじめた。

「あんまり無理すんな?おまえの分まで俺が頑張るからさ」
「大丈夫!」
ダァーッと駆け抜けるように雑巾で床を拭いていくへーすけを、ちづるもタッタッタッタッと追いかける。
ちづるが相手ではへーすけも悪ふざけは出来ない。

この見事な配置を考えた本人達は    



「そうじ。何度も言っているように私は風邪などひいていないんだよ」
「源さん、我慢は良くないですよ。今はおとなしくしていて下さい」

「……源さんは体調不良のため部屋で休んでます」
「困りましたね。源さんに聞かないと分からない事なんですが」
「……用があるのでしたら後でお願いします」

井上が部屋から出ないように見張っているそうじと、井上を訪ねてやってくる人間を追い返すはじめ。
一枚の襖を挟んで立つふたりに、部屋の外と内それぞれで大人達がため息を吐く。

「そうだ、そうじ……私と一緒に散歩に出ないかい?」
「散歩?……別にいいですけど」
そろそろこうして立っている事にも飽きてきたそうじが割と素直に聞き入れるのを見て、井上はホッと笑みを浮かべた。


「へーすけやしんぱちが今頃騒いでいるんじゃないか心配だね」
「それはないと思いますよ」
近くの寺の境内。日当たりの良い場所に腰を下ろす井上の隣に、そうじもチョコンと腰掛ける。
「真面目にやらないと夕食抜きですから」
「ハハッ、それは良い案だね」
そうじとはじめが中心になって考えた案を目を細めて聞き入っていた井上が、足元に落ちていたどんぐりを拾い上げた。

「屯所に帰ったらこれでこまを作ってあげようか」
「だったら……」
ピョンと立ち上がったそうじは、その辺りを歩き回って何かを拾い集め、再び井上のもとに戻ってくると、
「だったらこれ全部お願いします」
井上の手にそっと移した。掌に乗せられたのは五つのどんぐり。

「……ほら、僕だけ貰っちゃうと皆煩いから」
「そうだね。じゃあこまは六つ作るとしよう」
肩を竦めるそうじの話に井上はわざと乗ってやる。
彼らのくれた思いがけない休日。こんな時間の過ごし方も良いかもしれない。
こまを目の前にして喜ぶ姿を想像しながら、井上は大きく息を吸い込んだ。


◇◆◇


「あいつらも可愛い所があるじゃねぇか」
「ま、俺らはとんだとばっちりだけどな」

屯所に戻ってきた井上と話をした土方から事情を聞いて、原田達は笑っていた。
渋々引き受けた食事当番。銀杏は洗って乾かしてあとは火にかけるだけ。
「ったく。それにしたって勘違いにも程があるってもんだろ」
「だな。あぁ笑い過ぎて腹イテェ」
「「っ!!」」
「……ん?」
何かの気配を感じ振り返ると、そこに立っていたのは今度こそ水をもらおうと来たへーすけとちづる。

「新八っつぁん腹痛かったのか。ちづる、皆に知らせるぞ!」
「うん!」
「あっ、おい待て……っ!」
慌てて引きとめようと廊下に出ても、二人の姿は既にない。

「新八……おまえ夕食食えねぇかもしれねぇな」
「ここまでやっといてそりゃねぇだろ!?」


その以来、大人達は紛らわしい言い方をする時は、近くに彼らがいないか確認するようになったという    



【 終 】







『子供の前では迂闊に下手な事は言えない』友人の子から学んだ教訓を基に書いてみました。φ(⌒▽⌒〃)













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