UUTT * Side_Hari

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【自給自足】





『皆さんでおやつを作りませんか?』
それは島田のひと言から始まった。


相変わらず経済状態の厳しい新選組。彼らの暮らしはなかなか向上していく気配を見せない。
隊士の数が増えても、入ってくる金銭がそれに比例していないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、やはり直接影響を受けやすいのが食べる物。
おかずの内容が寂しくなったり少なくなったりで、ここ最近食事時は大人も子供も入り乱れての争奪戦がもはや恒例となりつつある。
そして。
『えー、今日も夕飯まで何も食うモンねぇのかよ』
大人達のように島原へ行ったり酒を呑んだりという楽しみがない彼らにとって大切な“午後のひと時”も、影響を受けているもののひとつだった。


◇◆◇


「皆って、僕達でって事?」
「はい。今から準備すれば今日のおやつに間に合いますよ」
「しかし我々だけで台所に入るのは    
「それなら心配要りません。今日は俺が皆さんと一緒に作りますから」

『島田。非番の日に悪いが引き受けてくれるか?』
『お任せ下さい。この程度、私にしてみればお安い御用ですから』
『頼みますよ。必要と思われる材料は、ひと通り台所の方に用意しておきましたから』

「それで、僕達で何を作るって言うんです?」
松本医院までちづるをお迎えに行って戻ってきたばかりのそうじとはじめ、連れて来てもらったばかりのちづるの三人が、玄関先で島田を見上げる。
「川沿いの土手でよもぎを摘んで、草餅を作りませんか?」
「草餅!」
よもぎの香る草餅は皆の好物。
中でもとりわけ大好物なちづるは、気が早い事にもう手を叩いて喜んでいる。
「どうする?」
「…………」
ここまで喜んでいる彼女の前で、『気が進まない』等と言ったらどうなる事か。

こうしてざるや篭を手にした彼ら三人と島田は、よもぎの茂っているであろう川原の土手を目指し意気揚々と(?)出かけていった。


◇◆◇


「採れてますか?」
そうじとはじめの篭を、島田がどれどれと覗き込む。
「ああ、良いですね。この調子で摘んでいけば、他の皆さんの分も十分作れますよ」
「こういうのを自給自足って言うんじゃない?」
肩を竦めクスリと笑うそうじの横で、いまいち摘んだ草に自信のなかったはじめがホッとした表情を浮かべる。
彼らから少し離れた場所で、ちづるはせっせとざるに草を盛っていた。

「こんな所にいやがったのか。……おい、これは何だ?」
土手に行くよう土方に言われやってきたとしぞうが、ちづるの足元に置かれたざるに目を留めた。
「今日のおやつの材料です!」
「おやつ?これを俺らが食うのか?!」
「草餅……嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃねぇけどよ……」
あんなに美味しいのに     驚くちづるの反応に、としぞうもまた困ったように眉を顰める。

「そのざるン中の草で作んのか?」
「はい!よもぎです!」
明らかによもぎ以外の草も混じっているざるの中身。
(ありゃたんぽぽじゃねぇか……)
もしかしたら、よもぎよりそれ以外の草の方が多いかもしれない。



「としぞうさんも摘んだらこの中に入れてください!」
「あ、ああ……」

楽しく摘んでいる彼女に違うと教えてやるべきか。否、金平糖を持っていない今の状態で、彼女に泣かれては一大事。
後の事は島田に任せ、としぞうもちづるの近くにしゃがみ込んだ。


◇◆◇


「そろそろ帰りましょうか」
島田が全員に声を掛けたのは、それからしばらく経ってから。
自分達に比べ山盛りに草が積まれたとしぞうの抱えたざるに、そうじとはじめは目を丸くしながら近付いていく。

「何ですか、これ。よもぎじゃないのも入っているじゃないですか」
「うるせぇ。……いいんだよ、これで」
「良くないですよ。僕達が摘んだこれで、屯所にいる全員のおやつを作るんですから」
「……俺が摘んだ草だけじゃねぇって分かってて言ってんじゃねぇだろうな」
としぞうがそうじに追い詰められている間、
「すごーい!!」
ちづるは自分達の何倍もよもぎを摘んだ島田の篭を、目をキラキラさせながら覗いていた。

「どうかしたんですか?」
「草が……」
「草?」
「使えない草がいっぱいあるねって話していたんです。あまり摘めなかったから自分のおやつは無いんじゃないかってこの人落ち込んじゃって」
「だからこれは    
「どれどれ……ああ」
騒ぎを聞きつけちづると共にやってきた島田は、としぞうの持つざるに目を遣ると、ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべた。

「屯所に着いたら、俺が皆さんに摘んでいただいた草をまとめて洗います」
「……俺達のを全部?」
「はい。虫に喰われた草などはその時捨ててしまいましょう」
「捨てちゃうんですか?!」
「なに、これだけたくさんあるんです。少しくらい減ったって大丈夫ですよ」
「ちづるちゃん、今日のおやつ楽しみだね」
「はい!」

よもぎ以外の葉は虫に喰われたという名目で、その時除けてくれるのだろう。
これでようやくひと安心のとしぞうの袖を、ちづるがくいくいと引っ張った。

「なんだ」
「今日のおやつ、心配しなくても大丈夫ですよ」
「……?」
「もしとしぞうさんの分がなくても、ちゃんと半分こにしてあげますから」
「っ!……あ、ああ……そりゃ悪いな」
「ゆーびきーりげーんまーん    


このざるは、自分が来た時既に山盛りになっていた。
このよもぎ以外の草は、自分が摘んだものじゃない。
それが言えればどれだけすっきりすることか    


やるせない思いを内に秘めちづるの指切りに付き合わされるとしぞうの腕と心は、抱えたざるの重みに悲鳴を上げそうになっていた。



【 おしまい 】







武藤さんが以前描いたイラストにお話をつけてみました (〃 ̄ω ̄〃ゞ





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