UUTT * Side_Hari

hari

novel-hari
▲gallery top



【即断即決】





ある日のこと。
いつものように松本良順の邸から屯所にやってきたちづるの周りに、幹部隊士とそのチビ達が集まった。
「へぇ、風鈴」
「ちづる、イイもん持ってるじゃねぇか」
「はい!松本先生に貰ってきました」
ちづるがどこか誇らしげな顔で手首を揺すると、紐の先に吊るされた風鈴がチリンと涼やかな音を立てる。

「どこに飾ろうか」
「ちづるが普段昼寝に使う部屋が良いんじゃねぇか?」
「いいねぇ。この音を聞きながら昼寝なんて最高じゃん!」
「となると、今は雪村の部屋がそれに当たるわけだが……構わぬか?」
「あ、はい!私でしたら特に問題は」
「よし!じゃあ俺様がチャチャッと吊るしてやろうじゃねぇか」
「良かったなちづる」
「はい!」

大人も子供も皆でぞろぞろ。目指すは千鶴が普段使わせてもらっている部屋。
「ここなんか良いんじゃねぇか?」
縁側から入ってすぐ、障子戸の上にある梁に目をつけた永倉が、ぺちぺち叩きながら振り返る。
「だな。そこなら風も適度に当たるだろ」
「そうかな……そこだと拙いんじゃない?」
「?」
沖田の発言の意味を理解出来た者は、残念ながら一人もおらず。
「どういう意味だよ」
「……もう少し分かるように説明しろ」
「はいはい。そこってさ、縁側から入ってすぐだよね?」
「そりゃ、まぁそうだな」
「そこにぶら下がってると、障子閉められないんじゃない?」
「!」
「障子が閉められないと、千鶴ちゃん着替えたり夜眠る時とか    
「ワーッ!新八っつぁん、そこ駄目!絶対反対!!」
「イテッ!分かった、分かったから離れろって!」

自分はただ親切心で動いてやっただけなのに。
腕を叩かれ、尻を蹴られ、裸足の足をギュゥギュゥ踏みつけられ。男永倉、今まさに踏んだり蹴ったりの悲しい状態。
「じゃあどこに吊るすんだ?」
もう懲り懲りとばかりに風鈴を原田に手渡して、自分は輪から一歩外へ。手渡された原田はぐるりと辺りを見回すと、
「あそこなんかどうだ?」
そのまま庭に降り立ち、部屋から程近い中庭に植えられた一本の木へと近付いていった。


◇◆◇


「ここなら障子だって閉められるし、風も当たってるだろ」
「当たってるっつーか当たり過ぎ。さっきからこれ鳴りっぱなしじゃん」
「……これだと夜は煩くて寝付けんな」
「夜じゃなくても昼間だって部屋にいる人にしてみれば十分……ほら、煩さそうな顔して睨んでる」
「おい。一体何の騒ぎだ」
仕事部屋から顔を出した土方のもとへ。
その険しい表情にもめげず、原田から返してもらった風鈴を抱きかかえ、ちづるがテトテトと歩いていく。
「これを飾ってもらう場所を探してました」
「風鈴……こういうモンは、普通軒下にぶら提げるんじゃねぇのか」
「その軒下で丁度良い場所がないから困ってるんですよ」

『飾ってもらえないかもしれない』

「ど、道場の入口とかどうだ?」
「ダメダメ!あそこじゃ稽古の声が煩くて全然音が聞こえないじゃん」
「……勝手場などどうだ」
「そこじゃ風が入らないでしょ」
「風呂場は……」
「厠は……」
「玄関は……」
寂しそうな顔で風鈴を持つ腕にキュッと力を籠めたちづるの様子に慌てた彼らから、次々候補が挙げられる。

「……こいつら、そもそもちづるが昼寝をする場所の近くって前提をすっかり忘れてやがる」
「どうするんですか?副長なんだからビシッと指示出してくださいよ」
「何で俺が     っ」
「あ、もうすぐ昼飯の時間だ」
「ほら……お昼を食べたらすぐこの子のお昼寝の時間ですよ」
まん丸の目でじっと見上げられると、鬼と呼ばれる土方ですら、何だか居たたまれない気分にさせられる。
「……貸してみろ」
「はい」
ちづるから受け取った風鈴を、土方は自分の部屋の入口にぶら提げた。
「いいのかよ、あんた仕事があるんじゃねぇのか」
「今日だけだ。明日までに他の場所を考えてやれ」
「良かったね、ちづるちゃん。この人の部屋は他よりずっと涼しいから、きっとぐっすりお昼寝出来るよ」
「後で布団持ってきてやるからな」
「はい!」
「「「「「………………」」」」」

『涼しい部屋』

そんな魅力的な言葉を、耳ざとい彼らが聞き逃すはずもなく。
「俺も今日ここで昼寝する!」
「なっ……!?」
「座布団でいいから俺らの分も持ってきてくれよ」
「座布団ならこの部屋にもあるんじゃないですか?」
驚きで声も出ない土方ととしぞうを放ったらかして、話がどんどん進んでいく。

    かくして。
その日の午後、子供達は皆で土方の仕事部屋に大集合。
「ったく。幾らなんでも集まり過ぎじゃねぇか」
文机に向かいながらうんざりといった声音で呟いていた土方は、

チリリン

時折聞こえる風鈴の音と彼らの健やかな寝息に、自分が笑みを浮かべている事に、自分で気付いていなかった。



【 おしまい 】







夏らしいネタをひとつ。φ(・ω・。)





※アイコン以外のサイト内画像の無断転載はご遠慮願います
No reproduction or republication.without written permission.











Copyright (C) 2010 Yorname. All Rights Reserved.