UUTT * Side_Hari

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【欣喜雀躍】





「うりゃぁぁぁっっ!!」
午前中庭先を走り回り、午後はちづると一緒に昼寝が恒例となったへーすけの夏。
「……ダメだ。さの、台所行って俺の飯取ってきてくれ」
「俺だって起きらんねぇんだ。それくらい自分でやれ」
大人達と一緒になって夜更かししては翌日なかなか起きられずにいるさのすけとしんぱちの夏。

「なるほどね。『敵を欺くにはまず味方から』か」
「そういう事。あ、これ仕掛ける前に誰かに話したら、斬っちゃうから」
「!」
沖田の膝に乗って悪戯を成功させるためのコツを学ぶそうじの夏や、
「普段使う物だからこそ、手入れを怠るわけにはいかない。分かるか?」
「……ああ」
刀の手入れをする斎藤の手元にこっそり見惚れるはじめの夏。

「さっきから何書いてんだ?どれ見せてみろ」
「嫌なこった。こういうのは自分ひとりで静かに楽しむモンだろ?」
「あ、ああ……」
特別に作ってもらった小さな筆で、得意げに紙に何かを書き綴るとしぞうの夏。

暑い暑い京の町。
それぞれ思い思いに過ごす中、ちづるはというと    


◇◆◇


ショリショリショリショリ……

「ちづるちゃん、こいつもいいぜ」
「ありがとうございます!」
「ちづる、まだまだあるからな」
「はい!」
次々回されてくる西瓜の皮。
皮に残った赤い実を、ちづるは器用に前歯を使い、削り落とすようにして食べていく。

ショリショリショリショリ……

「ちづるぅ、おまえこんなの貰わなくてもまだ自分の分が残ってるじゃん」
「そうだぞちづるちゃん。ハッキリ言わねぇと、こいつらどんどん調子に乗っちまうからよ」
「はい!どんどんください!」
「あいよ!」
「任せとけって!」
「いや、だから俺が言いたいのはそういう事じゃなくて……」
「新八諦めろって。こいつにとって西瓜は、夏の食いモンの中で一番の大好物なんだからよ」
「食べないのか?」
「……もう少し食べても大丈夫か?」

ちづるがあまりに夢中になって食べる物だから、はじめはどこまで自分が食べて良いのか悩む始末。
おかげでちづるのお腹はもうポンポン。
幸せなひと時を過ごしていると    

「皆さん、こちらにいらしてたんですね」
それまで別の部屋で洗濯物を畳んでいた千鶴が、彼らのいる縁側に顔を出した。

「よぉ千鶴、お疲れ!」
「千鶴ちゃんもこっちにおいで。暑い中あんまりキリキリ働いてると、そのうちバッタリ倒れちゃうかもしれないから」
「じゃあ少しお邪魔します」
夕飯の手伝いまではまだ間がある。
皆に少しずつ詰めてもらい、千鶴も輪の中に加わった。

「千鶴ちゃんも西瓜どうだ?……と言いたいところなんだけどよ」
「悪い、千鶴。こいつら一度食い出したら止まらなくって」
「僕達も一切れ口にするのがせいぜいだったんだよね」
「……まるで生き死にがかかっているかのような食べっぷりだったな」
「ふふっ。大丈夫です。私お昼食べ過ぎちゃって、まだお腹が苦しいですから」

まだ手付かずなのは、ちづるの手元に残された一切れのみ。
「あ……」
大事な大事な、最後に残したお楽しみ。
ちづるは手元の西瓜とニコニコ笑っている千鶴の顔をじっと黙って見比べて、おもむろにその一切れを手に取った。

「これ、どうぞ!」
「えっ、いいの?」
「はい!こういうモンは皆で食うから美味いんです!」
「それさっき新八っつぁんが……」

『こういうモンは、皆で食うから美味いんだ』
『だよな!』

「参ったなこりゃ」
「ふっ、あははは……っ」
「……?」
大人達の笑い声が響く中、ちづるは最後の一切れを千鶴に向かって差し出し続ける。

「本当にいいの?」
「はい!」
「ありがとう。じゃあちょっと私……」
ちづるから受け取った西瓜を手に、千鶴が向かった先は台所。
何をするつもりなのか分かった大人達とは対照的に、ちづる達は皆不思議顔。
やがて先程の西瓜を“ふた切れ”にして盆に乗せ、千鶴が縁側に戻ってきた。

「はい、これちづるちゃんの分」
「?」
「全部ひとりでは食べきれないから、半分食べてくれる?」
「ちづるちゃん、良かったな」
「……はい!わーい!」

一度は手放した西瓜が、再び手元に戻ってきた。さっきより少し小さくなったけれど、そんな事全然気にならない。
珍しく子供らしく喜んで、ちづるは素直に手を伸ばす。

「うわぁ、これすごく甘い西瓜ですね」
「だろ?ちづる美味いか?」
「はい!」

今日食べたどれよりも甘くて美味しい一切れに、ちづるは飛び上がらんばかりにして喜んでいた。



【 おしまい 】



欣喜雀躍(きんきじゃくやく):小躍りするほど喜ぶこと







教えられるのではなく、自然に身につく。
こういうのが自然に出来る人って、大人も子供もステキだと思います(´ω`*)






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