UUTT * Side_Hari

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【不撓不屈】





「今日は大事な客が来る日だからな。静かにしてねぇと夕飯抜きだぞ」
「「「「はぁーい」」」」

そんな事を言われても、庭に出れば走りたいし、走り回れば叫びたい。
「静かにって言われてもさ。俺らどうやって遊べばいいんだ?」
「どこか空いてる部屋使って、ままごと遊びでもやってみるか」
長い一日になってしまいそうな嫌な予感をとっぱらったのは、さのすけのふとした提案だった。

「えー……何でままごと?」
「たまにはこういうのもいいじゃねぇか。ちづるはどうだ?」
「おままごと……やりたいです!」
「な?」
「仕方ないね。ちづるちゃんにはいつも僕達の遊びに付き合ってもらってるんだし」
屯所に来る途中、屯所から帰る途中、幾度となく目にしてきたままごと遊び。
一度その遊びをしてみたかったちづるは、それはもう大喜び。
最初は渋っていたへーすけとそうじも、さのすけの説得で今回参加することに。
彼らは引き続き、ままごと遊びで最も重要なそれぞれの役どころについて考え始めた。

「嫁さんはちづるで良いとして、当然言いだしっぺの俺が親父だな」
「じゃあ僕がふたりの子供になってあげる」
「俺はどーすんだよ!」
「へーすけ君、赤ちゃんやればいいじゃない」
「ちょ、勝手に決めんなって!」
赤ん坊役なんか出来るかと文句を言うのに一生懸命なへーすけの耳には、
「へーすけ君小さいんだから丁度いいじゃない」
というそうじの辛辣なひと言は残念ながら聞こえていない。
「へーすけ君、赤ちゃんやってくれるの?」
「お、俺が赤ちゃんやったらおまえは嬉しいのか?」
「うん!」
「っ!」
「決まり、だね」
「だな」

駄々を捏ねていたのも束の間。
母親役のちづるにぴかぴかの満面笑顔で喜ばれ、へーすけはあっさり赤ん坊役に落ち着いた。


◇◆◇


「……で、何で俺らはこの中から選ばなくちゃならねぇんだ?」
稽古の見学をしていて来るのが遅れたとしぞう達が残された役に眉を顰める。

「早い者勝ちですよ。嫌なら無理に参加しなくても良いんですけど」
「悪いな、とりあえず今回はこの中から選んでくれ」
「大体なんで俺らがやるのに『舅』じゃなくて『姑』なんだ?」
「いや『姑』ってのはまだいいとして『御用聞き』は家族じゃねぇだろ?!」
「……『犬』など既に人間ではないな」
「あーっ、いいから早く選べって。ちづるはもう準備に入ってるんだぜ」
へーすけの言葉に顔を上げれば、ちづるが畳の縁を使って上手に家の間取りを作り始めている。

    かくして。

大いに不満を感じつつも、としぞうは性別の壁を超え『姑』に。
『しんぱっつぁん絶対この役向いてるって!』の言葉に乗せられ、しんぱちは家族の枠を超え『御用聞き』。
特に文句も言わずそこにいたはじめは、種族の垣根を超え『犬』に決まった。



「僕、あっちで勉強してきます」
「いい子ですね。ご飯になったら呼びますから来て下さいね」
「悪い、もう一杯水くれ」
「はーい!あ、赤ちゃんはちゃんとお布団掛けていなくちゃだめですよ」
楽しそうにそれぞれの役をこなしていくさのすけとそうじ。
へーすけもあれほど嫌がっていた割には、満更でもない顔で座布団の上に転がっている。
御用聞き役のしんぱちはより真実味を持たせるため庭先へと自ら出て行き、はじめは庭と称された部屋の一角でおとなしく座っている。
「掃除がちゃんと行き届いているか確認でもしてりゃ良いじゃねぇか」
ただ一人、手持ち無沙汰にぽつんと佇むとしぞうを見かね、さのすけが声を掛けてやった。

「はぁ?何で俺がそんな事……」
「姑だろ?ここが汚ねぇあそこがなってねぇって文句言ってりゃいいんだよ。そうすりゃ俺も嫁さん庇えるし」
「そういう鬼ババァみたいなの得意そうじゃ     い゛ぃ!?ちょ、足っ!俺の足踏んでるっ!!」
ぎゅぅぅっとへーすけの足を踏んづけたところで、今更彼と役が入れ替わるわけでもない。

    いや、今ここでへーすけの役と交換出来ると言われても、それはそれで困るのだが。

仕方なくとしぞうは、言われた通り障子の桟を指でなぞり、『嫁の掃除した後を点検する鬼姑』を演じていく     と。
「なっ!そうじっ、てめぇその発句集どこで手に入れやがった!?」
子供役のそうじが読みふける本は、確か土方が誰にも見つからないようにと文机の奥に隠していたもの。

「あれ?お姑さんがそんな口の利き方していいんですか?ほら、ちゃんと『ふぅ』ってやらないと」
「っ!くそ……ふぅ……汚ねぇな」
本来ここは雪村千鶴が毎日のように掃除している場所なのだから、指に埃など付くはずない。
そうじの持つ発句集を気にしつつ台詞は完全棒読み。まるで心の入っていないひどい芝居を打つとしぞうだったが、
「……ごめんなさい。すぐやり直します」
こんな風に完全に『嫁』役に身も心もなりきっているちづるに申し訳なさそうに謝られれば、胸は痛むし気持ちはへこむ。
「おい母ちゃん、こいつは良くやってくれてんじゃねぇか。あんまりキツく当たるなって」
「おまえが言えって言ったんじゃねぇか」
「言い方ってもんがあるだろうが」
「嫁いびりしてるおばあちゃんなんて僕嫌だな」
「ダァッ」
「…………くっ」

家族全員から非難を浴び、すっかりやる気をなくしてしまったとしぞうは、はじめのいる『庭』まで下がってしまった。



「おや、皆ここにいたのかい。お土産にとお客様からいただいた団子を持ってきたんだが」
「やったぁ、団子!」
「ん?としぞう君が元気がないようだね……?」
「あ?ああ……ま、気にしないでやってくれ。それより源さん、お茶も貰いてぇんだが」
「ああそうか。じゃあ誰か一緒に炊事場まで取りに来てくれるかい?」
「ちづる、手伝ってやるから一緒に行こうぜ」
「はい!」
おしどり夫婦さながらに、微笑みを交わして共に部屋を出て行くさのすけとちづる。
依然やる気を無くしたままのとしぞうだけに分かるよう、はじめが庭を指し示した。

「へい、いらっしゃい!……じゃねぇのか」
「毎度!何か要りような物ありませんか?」
「醤油の良いのが入ったよ!……お、いい感じじゃねぇか」

秋風の吹きすさぶ庭先。
いつ来るとも知れぬ     来ないままかもしれぬ出番に向けて、独りせっせと役作りに励むしんぱち。
「「…………」」
彼の境遇に比べ、自分達の置かれた状況の何と恵まれた事か。
もしままごと遊びがまだ続くのであれば、今度こそ完璧に演じてみせよう。

『家』とされる場所から少し離れた畳の上、二人は静かにしっかり頷き合った。



【 おしまい 】



不撓不屈(ふとうふくつ):どんな困難に出会ってもけっして心がくじけないこと







ちづるの喜ぶ顔が見られれば、きっと皆それだけで幸せなんだと思います。(´ω`*)





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