collaboration
【同じがいい】
今日は2号達にとって待ちに待った日。
楽しみにしていた自分達の刀がようやく屯所に届いたのだ。
もちろん刀とは言っても、扱い方を知らぬ彼らに本物を持たせて怪我をしたり誰かを傷つけでもしたら大変なので、そこは『張り子』の刀だけれど。
細かい箇所まで丁寧に作りこまれたそれは一見本物と見まがう程の出来栄えで。
そうじは沖田に、しんぱちは永倉に……と言った具合にそれぞれ刀を腰に差すのを手伝ってもらっていた。
「なんだよ左之、おまえんとこの2号一丁前に槍まで作ってもらってんのかよ」
「当たり前だろ?おまえらが大小ぶらさげてんのと同じように俺達は槍を持ってなんぼのもんだからよ」
原田と永倉がやりとりをしている目の前で、準備の済んださのとしんぱちはピュゥッとどこかへ行ってしまった……一本の槍をその場に残して。
「……なんぼのもんじゃなかったのかよ」
「くそっ、あの馬鹿。これじゃ俺の立場がねぇじゃねぇか」
一方同じ部屋の片隅ではちょうど巡察に出ていて不在の斎藤と平助に代わり、千鶴がはじめとへーすけの帯刀を手伝っていた。
「ちーづーるっ!ねぇ千鶴ってば早くしてくれよ!!」
早々消えてしまったしんぱち達が気になるのか、へーすけは先程から早く早くと千鶴を急かす。
「ごめんねもうちょっとだけ……えっと……あれ?こうでいいのかな?」
普段自分も小太刀を扱ってはいるけれど、他人の腰に刀を差すというのは初めての経験で。千鶴は先程から少々手間取っていた。
早くしてくれと焦れるへーすけの横には、じっとおとなしく順番を待つはじめの姿があった。
「うわーすげーっ!見て見てはじめ君、俺って超刀が似合うと思わない?!」
無事に刀を腰に差し終えたへーすけは、嬉しそうにくるくる回って見せた後、礼もそこそこにしんぱち達を探しに部屋を飛び出して行った。
続けてはじめの番になった時。
「千鶴、それ終わったら俺の部屋まで茶ふたつ持ってきてくれ」
「はい、ただいま!」
土方にお茶を持ってくるよう頼まれた千鶴は、何か言いたげにしているはじめの様子に気付かず。
今しがたへーすけのを手伝ってやった事で掴んだコツを生かし、手早くはじめの腰に刀を差してやった。
「はいっこれではじめ君も出来上がりっと!よく似合ってるよー、斎藤さんそっくり」
「…………」
お茶を淹れるため慌しく千鶴が部屋を出た後、その場にはポツンとはじめ一人が残された。
何か言いたげに腰の刀をカチャカチャいじり、けれど今この場ではどうにもなら無い事を悟ると、やがて諦めたように玄関を出て門へと向かった。
「おいはじめ、おまえこんなとこ突っ立って何してんだよ」
「向こうで皆ちゃんばらやって遊んでるぞ。おまえ仲間に入らなくていいのか?」
門柱にそっと寄り添うように立つはじめは、島原へ行こうと通りかかった新八達に声を掛けられるも一瞬チラリと見上げるだけ……後はそのまま誰もいない道の向こうをじっと見つめるばかり。
「斎藤に真っ先に見せてぇんじゃねぇのか?」
「……だな。あーあ、俺んとこの2号にもそれくらい愛情がありゃ可愛いんだけどよ」
「無理無理。折角土方さんに無理言ってこしらえてもらった槍のありがたみを判んねぇようじゃ、まだまだこいつと斎藤みたいにはなれねぇよ」
「煩せぇな……いつも屯所のそこら中を肉の脂まみれにしちまうようなちび助と組んでるおまえにだけは言われたかねぇんだよ」
そっとしておいてやろうと二人がその場から立ち去ったのと入れ違いに、ようやく待ち焦がれていた斎藤の率いる三番組が平助の組と一緒に戻ってきた。
「おっ、はじめ。おまえイイの腰に差してんじゃん!どれどれ……」
刀をよく見ようと近付く平助から逃れるように、はじめはサッと斎藤の影に隠れた。
「はいはい、まずは一君に見せたいわけね。じゃ、俺はへーすけのでも見てくっかなー」
さほど気分を害した様子も見せず、平助はさっさと屯所の中へ入っていった。
それぞれの組の隊士達も屯所の中へ入り、はじめと二人きりになるのを待っていたかのように斎藤が腰を屈めてはじめに話しかける。
「……雪村に刀を差すのを手伝ってもらったのか?」
その問いかけにコクリと頷いて答えるも、やはりはじめの様子がどこかおかしい。
何か言いたげにじっと斎藤の目を見つめ、手はもどかしそうに刀の柄をいじっている。
「どうした……言いたい事があるならちゃんと口に出して言ってみろ」
今では大抵の事は口に出さなくてもお互いに分かり合えるが、やはりはじめには自分以外……他の者達ともうまくやっていって欲しい。
そのためにあえて斎藤は、はじめに自分の気持ちを言葉にさせた。
口に出さずとも判って欲しかったはじめは、一瞬その瞳に悲しみの色を深く滲ませたが、
「……同じがいい。腰に差すのを直してくれ」
言いづらそうに恥ずかしそうに、けれどはじめはハッキリと自分の気持ちを言葉にし。斎藤は緩く微笑んだ後、はじめの望みを叶えるべく手を貸してやった。
◇◆◇
数刻後。
「ちゃんばらやるなら庭に出てやれつっただろうがっ!!」
ついつい夢中になって遊んだ結果あちこちに穴を開けてしまった障子の前で、へーすけ達は土方に怒られていた。
「しんぱっつぁんが悪いんだぞ?俺の刀を弾き飛ばしたりするからさー……」
「俺だけのせいにすんのかよっ?!人が気持ちよく刀振り回してる最中に勝負挑んでくるおまえだって
「てめえら……人が注意してる最中に喧嘩おっ始めるとは良い度胸してんじゃねぇかっ!……もういい、刀は没収だ没収」
「そんなあ、折角腰布まで用意したのに。だったら俺ら何を腰に差せって言うんだよ!」
「知るかっ!爪楊枝でも割り箸でもその辺にあるもん適当に差しときゃいいじゃねぇか」
こんな時、本来なら矢面に立ち庇ってくれるはずの永倉達は『不逞浪士の情報収集』と称した呑みに出かけたままいまだ帰らず。
「やめろーっ、離せぇぇっっ!!」
必死の抵抗も虚しくしんぱちとへーすけの身柄は土方に拘束された。

「あれ、はじめも右差しなの?ねえ斎藤君、この子って左利きだったっけ?」
縁側に腰掛けている斎藤の傍らに立つはじめは、斎藤と同じように右側に刀を差している。
「別にどちらでも構わんだろう……俺は本人のしたいようにさせてるだけだ」
「ふーん……」
珍しく人前でも嬉しそうな表情を隠そうとしないはじめの様子に、斎藤も滅多に出さない穏やかな笑みを浮かべてそっと頭を撫でてやった。
◇◆◇
……ぽりっ……こりっ……
「今日も良いお天気ですね!」
「……ああ」
「きっと今夜のお布団もお天道様のお陰でフカフカですね!」
「…………そうだな」
いくら話しかけても覇気のない答えに、ちづるはそっと隣に座るとしぞうを見上げた。
『くそっ……なんで俺だけ……っ!』
やり場のない悔しさから眉間に皺が深く刻み込まれる。
思わず舌打ちまでしそうになったギリギリの所で、隣に座る小さな存在の事を思い出し、そちらの方をちらりと見やる。
……ぽりっ……
ちづるが先程からカリカリと食べているのは金平糖。
2号達の刀を作り屯所まで持ってきた店の主人が、『小太刀は頼まれていなかったもんでねぇ』とちづるに与えた物だった。
元々刀にもそれを使ってのちゃんばら遊びにも興味のないちづるは、大喜びでそれを受け取り。
一方、つい最近屯所に来たばかりのとしぞうの刀はただ単純に手配が間に合わず……それで今こうしてちづるのお守りも兼ねて二人でお茶を啜っている最中だった。
大きなため息を吐いたとしぞうの様子から何か思い当たる節があったのか……ちづるはサッと手に乗せた包みをとしぞうに差し出した。
「これ……どうぞ!」
「……?」
「ごめんなさい……ちづるが一人で食べてたから寂しかったんですよね」
申し訳なさそうにシュンと耳を垂らして落ち込むちづるを、としぞうは慌てて慰める。
「俺は別にいらねぇよ、それは全部おまえの物だ。……悪い、ちっとばかし別の事考えててよ」
「あ、それ判ります!ちづるも時々今晩のおかずは何かなぁってお昼寝の時に気になったりするから」
『やっぱり私達、似てますね!』
嬉しそうに耳をピンと伸ばすちづるに対して、意識していないとたちまち萎れてしまいそうな気持ちを必死で支えながら。
少し離れた部屋から聞こえてくる賑やかな声を心の底から羨ましい気持ちで耳にするとしぞうだった。
【 完 】
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