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610&hari

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【これも立派な夏祭り】



大きい彼らも小さい彼らも、皆で昼食を囲んでいる時。
「そういやもうすぐ京の都も祭りの時期だなぁ」
「あーそっか。そん時巡察に当たると最悪なんだよな!」
「おい新八っ!平助っ!」
原田の鋭い制止の声に『しまった』と慌てて口を紡ぐ二人。

『……“まつり”って何ですか?』

いつもならすぐにくるかわいい質問の声が今回に限ってなかなか飛んでこない。恐る恐るその場の全員でちづるの方に目をやると。
「……」
彼らの話が彼女の耳に入らぬようにと、はじめがそっと彼女の耳を塞いでいる。


後ろの2人は気にしないでw


実はつい先日……うっかりちづるの前でこれまでに斬った不逞浪士の話につい興が入ってしまった所、彼女を預かり面倒をみている松本医院の松本良順が、翌日苦笑いを浮かべながら土方にひとつの提案をしてきた。

その日の夜ちづるはなかなか寝付けずにいたのだという。
どうも何気なく聞いてしまった昼間の話を思い出してしまったらしく、しかもこの程度で怖がっているようではもう二度と屯所に行かせてもらえないとでも思ったのか、ひとり布団の中で長い夜を持て余しシクシク泣いている姿を松本の家人が発見し、結局その晩彼女が寝付くまで枕元にいてやったのだという。

『今後斬るだの絞めるだのの話は、出来るだけちづるの耳に入らないようにしてやってくれないか』
松本からの提案を受け入れた土方はそれを他の幹部にも伝達し。
以来物騒な話になると、誰か近くに居る者がちづるの耳を塞いでやるようになったのだ。

今も『聞いたら駄目な話』をされていると、ちづるは空いている両手でギュッと自分の目を塞いでいる……はじめの手からはみ出している耳の先がピコピコと動いてしまうのは本能と言った所か。

「ったく気をつけろよ」
「悪い……」

    ちづるが“祭り”に興味を持ってしまったらどうする。彼女の身の安全を考えたら、どんなにせがまれたって連れていってやる事が出来ないのに。『聞いたら駄目な話』が終わった合図に彼女の小さな頭にポンと手を置いたさのすけは、顔から手を離したちづると目を合わせると、安心させるようにニッコリ笑って見せた。

◇◆◇

次の日。
さのすけが原田のもとに槍の扱いを教えて欲しいと言ってきた。
珍しい事もあるものだと内心驚きつつも、やはり自分の得意としている槍にさのすけも興味を持ってくれたのが嬉しくて、早速中庭で手ほどきを始めたまでは良かったのだが。

「おい、おまえ本当に教わる気があるのか?」
どこか気もそぞろなさのすけに原田が声を掛ける。身が入らない稽古は危険……大怪我をしてしまう恐れもある。
「……何かあったのか?」
いつもと違うその様子にさすがに心配になった原田がさのすけのもとへ近づくと    

「俺……昨日あいつに嘘教えちまった」
そう言いながらさのすけが見た先は雪村千鶴の部屋。
午前中の水浴びで遊び疲れたちづるは、今そこで昼寝をしている。

『……こいつ』
本当は稽古ではなく、自分に話を聞いて欲しかったのではないかと気づいた原田は中庭を横切ると縁側に腰を下ろし、
「立ち話もなんだからおまえもここ座れよ」
と自分の隣をぽんぽんと叩いてさのすけを呼んだ。
「昨日あいつを送っていった時なんだけどよ……」

『祭りって何ですか?』

いつものように手を繋いで帰るその道すがら。
何か言いたそうにしているちづるに気になる事があるなら言ってみろと促して出た質問がこれ。

いくらはじめが素早く耳を塞いだとはいえ、やはり最初の方はちゃんと聞こえていたらしい。

「ったく、新八の馬鹿……。で?おまえはあの子に何て答えてやったんだよ」
原田の問いかけにさのすけはすぐに答えようとはせず、自分の足下に視線を落としている。

「言ってみろって。絶対笑ったり怒ったりしねぇから」
「祭りってのは……みんなで旨いもん食って賑やかに楽しく過ごす事だって……俺嘘教えちまった」
ようやく口を開いたさのすけはそこまで言うと悔しそうにキュッと唇を引き結んだ。
憧れを抱かせても連れていってやれないのなら……と、さのすけなりに精一杯考えた末の答えなのだが、嘘を吐いてしまった事がどうにも自分で許せない。

悔しがるさのすけの不器用な男気を微笑ましく思っていた原田だったが。
「だったらおまえが教えたその“祭り”俺らでやってやればいいじゃねぇか」
そう言って何事かさのすけの耳に囁いて……
「……そんな事、出来んのかよ」
「やってみなくちゃ判んねぇよ。さ、まずは新八と平助を探す所から始めようぜ」
まだ座ったままのさのすけを立ち上がらせると、皆の協力を得るために二人はどこかへと歩いていった。

◇◆◇

    それから数日後。
「おまえら今日は全員風呂場で遊んでいいぞ」
『風呂場で?!』今まで一度だって風呂場で遊ぶ事を許してもらった事などないのに。
普段庭先にあるたらいに水を張ってもらうのだって一人でも行いの悪い奴がいるとなかなかやってもらえないのに、これは一体どういう風の吹き回しだとそれぞれ顔を見合わせる。
「もう風呂桶に水も張ってあるからな、思いっきり暴れてこい。けどな……いいか?今日はちづるも一緒だからな。ふんどしだけは絶対に外すなよ。判ったか?」
釘を刺す永倉の声に元気良く答える彼らの傍らで、今日は自分も一緒に遊べるとぴょんぴょん飛び跳ねてちづるも喜ぶ。

脱衣場で着物を脱ぎ捨て次々と風呂へ飛び込む彼ら。ちづるもそうじとはじめの手を借りて、いきなり溺れないようにチャプンと入る。
「あれっ?さのさん入んねーの?」
原田達と一緒に脱衣場から彼らの様子を眺めているさのすけに、へーすけが声を掛けた。
「ん?んー……俺は……な、ちょっとやらなきゃならねぇ事があるんだ」
曖昧な返事を残すと、さのすけは原田達と一緒に脱衣場を出て行った。
「……やらなきゃならねぇ事って何だ?」
一瞬疑問がよぎったものの、滅多に遊ぶことの許されない風呂場での水遊びが楽しくて、夢中になって遊んでいるうちに皆すっかりその事は忘れてしまった。

一方その頃炊事場では。
「……良かったのかよ、一緒に遊ばなくて」
西瓜を食べやすい大きさに切り分けては皿に乗せているさのすけに永倉が声を掛ける。
「もうすぐ他の奴らも手伝いにくる事になってるから、別におまえが頑張らなくてもいいんだぜ?」
それでも手を休める気配のないさのすけの姿を、原田は温かい目で眺めていた。

やがて遊び疲れた頃。
風呂からあがり手拭いで包まれ別の部屋へ連れて行かれたちづる以外は、着替えが終わると中庭に出るよう指示された。
「あーもぉ俺腹ぺこぺこ」
情けない声を出すへーすけを何とか中庭まで歩かせていった先に待っていたのは    

「ほら、おまえら早くこっち来いよ!」
大きなござが敷かれた上に、素麺や煮物や焼き物等……とにかく普段の食事ではなかなか一度に出る事のないすごいご馳走が並んでいる中で平助や沖田や斎藤がこちらに向かって手招きしている。
「すげーっ!!」
それぞれ大人の隣に寄り添うように腰掛けた所へ。
「お待たせしました」
千鶴の声に振り返ると、縁側には浴衣に着替えたちづるの姿。
浴衣は可愛らしい色合いで、帯はまるで金魚の尾びれのようにふわふわ風になびいている。

「ちづるちゃん可愛いね。それどうしたの?」
「……作ってもらいました」
そうじの言葉にほんのり頬を赤らめて、ちづるは自分の手を引く千鶴を嬉しそうに見上げた。
「……いいなぁ、俺も浴衣欲しい」
予想通りのへーすけの言葉に千鶴の横に立つ土方がニヤリと笑みを浮かべる。

「おまえらの事だ。どうせそういうと思って……ほら、ここにあるから着たい奴は取りにこい」
「うわーすげぇ!俺のは甚平だ!!」
「おいへーすけっ、おまえ人に紐結ばせてる間くらいじっとしてろって!」
「……浴衣だからな……襟巻きは外した方がいいと俺は思うが」

それぞれ大人達の手を借りて浴衣や甚平に袖を通す。
さのすけも原田に帯を締めてもらいながら、初めて見る少女らしいちづるの姿に目を細めていた。

食事を済ませ、いよいよちづるの大好物の西瓜の登場。ぱちぱちと手を叩いて喜ぶちづるを自分の膝の上に乗せた原田は『今日は腹いっぱい好きなだけ食っていいんだぞ』と笑いかけた。
いつもなら決められた数しか口に入らないので、赤くて甘い部分がなくなっても皮のしましま模様が透けて見えるまでちづるはショリショリと食べ続けるのだが、今日に限っては赤い部分を食べ終わると原田が新しいのを渡してくれる。
食べ終わった皮はちづるのを含め全員分をそうじがまとめてとしぞうの前にこれまた器用に積み上げてゆく。としぞうはというと……こめかみをピクピクさせ怒りに打ち震えながらも、幸せそうなちづるの手前寸での所で堪えている。

気付けばすっかり陽も落ちて。皆の腹が満たされた所でちづる達は縁側に座らされ、大人達が食事の後を片付け……何やら次の準備をしている。
さのすけ以外全員が不思議そうに見守る中、用意されたのは。
「花火だーっ!すげぇっ、俺もやりたいっ!!」
真っ先に気が付いたへーすけ、しんぱちに続くようにそうじとはじめも中庭に下りる。

手元のこよりに火を点けると、パチパチと小さな音を立てて火花がまるで鮮やかな花のように爆ぜ始めた。
生まれて初めて見る“花火”を縁側に座ったまま食い入るように眺めるちづる。
大人達に抱き上げられ、火の玉が落ちないように彼らはそっと大切な宝のように扱いながら、ちづるに良く見えるように彼女の方に手を向ける。

「おいっこらそうじ!てめぇ何俺のとくっつけようとしてんだよっ!!」
「ちょっと動かないで下さいよ。大きいのだって見せてあげたいじゃないですか」
そんな小さないざこざに気が付かないまま、ちづるは夢中になって花火を見ている。

「……今日、楽しかったか?」
いつの間にか隣に来ていたさのすけが、縁側に腰を下ろしながら問いかける。
「祭り……楽しかったです」
「そっか……」

うっとりため息交じりのその答えに、嘘を教えてしまったというここ数日の心のもやもやもすっかり晴れて。
力を貸してくれた大人達に向かって頭を下げたさのすけは、ちづるの手を取り仲間達のもとへ走って行った    

後ろの2匹は気にしないでww



【 完 】











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