UUTT

610&hari

collaboration
▲gallery top



【一緒に食べよ】



秋も深まり、鼻先を掠める風に少しだけ冬の匂いを感じるようになったある日の朝。

「ちづる、今日のおやつ楽しみにしとけよ!」
迎えに来たへーすけが得意げな表情で振り返る。
「昨日の夜すげぇ風が強かっただろ?栗が落ちてるんじゃねぇかってへーすけとしんぱち今朝まだ夜が明けきらねぇうちから山に入って栗拾いしてきたんだよ」
下手に走り出した所を荷車にでも轢かれては……と、ちづるの手をしっかり握ったさのすけが事情を飲み込めないでいる彼女にも分かるように説明してやる。

「もうすっげーの!栗があっちこっち落ちててさ。持ってったザルなんかあっと言う間にこーんなに山盛りに」
多少誇張されてはいるものの、確かに二つのザルいっぱいにして二人は意気揚々と山から戻ってきた。
『……新八っつぁん、俺すげー眠いんだけど』と文句たらたらな大人二人を従えて    

「源さんが焼いてくれるっつってたからさ、後で一緒に食べような!」
「うん!おやつ楽しみ!」
そうして待ちに待った午後お茶の時間    

「……なんでちづる寝ちゃうんだよ」
「仕方ねぇだろ、あの子の昼寝は今日に始まった事じゃねぇんだ。……どうする?先に食っちまうか?」

目の前には井上の持ってきてくれた美味しそうな栗がザルいっぱい。
待望のおやつ!……の筈なのに、ちづるがお昼寝の真っ最中。おかげで彼らは先程からお預けを食らっているのだ。
『もうこれ以上待つなんて無理』皆が栗に手を伸ばしかけるのと、考え込んでいたへーすけがバッと顔を上げたのはほぼ同時。

「やっぱ駄目だ!俺ちづると一緒に食うって約束したから、あいつの事裏切るなんて出来ねぇっ!」
そんな大袈裟な……と思う者はあれど、この栗の件に関してへーすけの発言権は大きい。彼の機嫌を損ねたら、先に食べるどころか下手をすると一粒も口に入らなくなってしまう。

「そうは言っても、じゃあどうすんだよ。起きるまで待ってたら折角のホカホカが冷めちまうぞ?」
「うーん……」
腕を組み頭を捻って考えることしばし。
「イイ事思いついた!」
そう言ってザルから栗を幾つか掴み取ると、へーすけは部屋の前の廊下に栗を並べはじめた。



「「「「…………?」」」」
訳が判らずただ見ている彼らの目の前で、両手が空になったへーすけはまたザルまで戻って栗を掴む。
「ちょっと。ただ見てるだけじゃなくて手伝ってくれよ!」
「……いや、へーすけ。おまえ何やってんだ?」
「何って見て分かんねーの?このままあいつの枕元までこの栗並べていくんだよ!」
「並べてどうすんだ?まさかここまでおびき出すつもりとか?」
「ご名答!さすがしんぱっつぁん、食いモンの事となると冴えてるねー!」
褒められて気を良くしたのかただ単純なだけなのか……しんぱちはさのすけを引き連れて、それぞれ両手に栗を掴みへーすけと一緒に部屋を出る。
「ほらほら、そこの二人もボーッと眺めてないで手伝って」
いまひとつこの『作戦』に納得しきれていないそうじとはじめも、へーすけに促され渋々栗を掴み彼らの後に続いた。

◇◆◇

ちづるの寝ている部屋に大分近付いた所で、さのすけがふと疑問を口にする。
「……それにしても、何で彼女の枕元から並べ始めなかったんだ?」
「イイじゃん別にどっちからだって。枕元に置いた途端目が覚めちまうより、この方が面白そうだろ?」
「そりゃそうだけどよ……」
起こすのが目的ならその方が手っ取り早くて良いのではないかと口に出しそうになるのをさのすけがグッと堪えているすぐ後ろでそうじが口を開く。
「でもさ……これ枕元に置いて、本当にあの子起きると思う?」
その言葉に対し、皆一様に彼を振り返る。

「一つ二つ枕元にあったところで……特に目が覚める程の匂いなんてしないと思うんだけど」
それぞれ手にしている栗を一つだけ鼻の近くに持ってくる……確かにこれで目を覚まさせるのはちょっと難しいかもしれない。
「何で今更そんな事言うんだよ。もうここまで来ちゃったんだから続行だ、続行!」
「だな。最後に残ったの全部枕元に置いてとりあえず様子を見ようぜ」
へーすけとしんぱちは計画続行を決め、結局彼らはそのまま引き続き栗を並べ続けた。

いよいよ最後、ちづるの昼寝している部屋にそっと忍びこみ    

「可愛い顔して寝てんじゃねぇか」
「ちょっとさのさん!そんなに覗き込んだら起きちまうだろ?!」
「このままここで起きるまで寝顔を見ているっていうのでもいいと思うけど」
「くだらねー事言ってねぇで栗を置いたらさっさと部屋から出やがれ!はじめ君、襟巻きっ!襟巻きがちづるの顔に当たってる!」
これだけ枕元で騒いでいても、ちづるは全く目を覚まそうとしない。
とりあえず枕元に残った栗を全部盛ると、部屋の外から耳を澄ませる事にした。

    少し経った頃。
「……う……ん」
部屋の中でゴソゴソと動き出す音がする。そっと障子戸を開け中の様子を窺うと、寝ぼけ眼のちづるが布団の上に起き上がり目の前の栗をボーッと不思議そうに見つめている。
「……まさかこの場で食っちまうんじゃねぇだろうな」
「と、とにかく俺らは向こうに戻って待ってよーぜ」


どうしてここに栗があるんだろう……ようやく目が覚めたちづるは使っていた布団を畳み、改めて山盛りの栗に近づく。触ってみるとまだホカホカと温かい。
『とりあえず皆の所へ持って行こう』
そう考えて抱え込もうとしてみるものの、山に盛られた栗は両手で持ってもまだ幾つか足元に残ってしまう。
考えた末に左の袂に次々栗を入れていく。枕元の栗は全て袂の中に収まり、ちづるは嬉しそうに笑った。
ふと見ると枕元だけではない……点々と置かれた栗が障子戸に続いているのに気が付いた。
それらも全部、袂に入れ。障子戸を開けると    
「すごーい!」
ズラーッと綺麗に並べられた栗の列が廊下の奥まで続いている。
置かれた栗の意味する事が判らぬまま、右手で拾っては左の袂に入れ、また右手で拾っては     を繰り返し。
途中左側ばかりに重みが偏り過ぎる事に気付いてからは、右の袂に入れるように気を付けながら、その栗に導かれるように前へ前へと進んでいった。


「来た来た」
途中まで様子を見に行っていたしんぱちが嬉しそうに戻ってきた。
しばらくして部屋の前の障子戸に小さな影がモゾモゾ映り    
やっとここまで辿り着いたちづるが部屋に入った瞬間、彼らの視線はその袂に集中した。



「ちづるちゃん、なんで袂がこんな事になってるの?」
「栗拾いしてきました!」
皆が腹を抱えんばかりにして笑い転げる中、はじめとさのすけが重たそうにぶら下がっている袂を下からそっと支えてやる。
「……持っていてやる……自分で出せるな?」
「はい!」
「慌てる必要ねぇからな」

全ての栗を袂から取り出すと、ちづるは人数分に栗を分け始め、
「……としぞうさんはどこですか?」
姿の見えない彼の所在を誰にともなしに尋ねる。
「よし、待ってろよちづるちゃん。俺が今すぐ呼んできてやるからな!」
勇ましく部屋を出て行ったしんぱちは、その勢いのままに土方の部屋の襖をスパーンと開け放った。
例の如く……一人のんびりと土方の部屋で寛いでいたとしぞうはその物音にビクリと一瞬身を竦ませる。

「馬鹿野郎っ、廊下をバタバタ走るんじゃねぇよ。あと人の部屋に入るのにいきなり襖開ける奴があるか!」
「悪い、今急いでてよ。ちょっと俺に付き合って向こうの部屋に一緒に来てくれ」
「……何の用だよ」
「ちづるちゃんが栗を人数分に分けてんだよ」
「は……?」
「いいから、ほら早くしてくれよ」
頭の中を疑問符でいっぱいにしたとしぞうは聞き返す間も与えてもらえず、そのまましんぱちに腕を取られて部屋から連れ出された。


「よーし、食うぞ!」
ちづるの手により公平に分けられた栗を、各自横取りされないように注意を払いながら次々器用に剥いてゆく。
「ったく……ほら、かしてみろ」
上手く剥けないでいるちづるを見かね、隣に座ったとしぞうが剥いて彼女の掌に乗せてやる。
「あっちづるちゃんばっかりずるいなぁ。ねぇひじかたさん、僕のも剥いてくださいよ」
「馬鹿野郎、甘ったれた事言ってんじゃ……おい、何勝手に人の前に持ってきてんだよ、てめぇで剥け、自分の座ってた場所に戻れって言ってんだよ!」
としぞうがそうじの対応に苦労している反対側で、代わってはじめが黙々とちづるの分を剥いてやる。

「あっ、これは剥かないでください」
「…………?」
ひとつだけ自分の手元に残したちづるは、それを慌てて袂にしまい込んだ。


「今日の栗、ありゃ美味かったな」
ちづるを松本医院まで送る道すがら、珍しく愉快そうにとしぞうが口を開く。
「だな。さすが朝から『期待してろよ!』って騒いでただけの事あったんじゃねぇの?それよりちょっといいか。……なぁちづる、おまえ袂に何か入れてんのか?」
朝同様、帰りもちづるの手を取り歩いていたさのすけは、先程からコツコツと自分に当たる彼女の袂が気になり足を止めた。
としぞうとさのすけ、二人が見ている目の前でちづるがコロリと袂から取り出したのは、まだ皮の剥けていない一粒の栗。
「先生にお土産です!」
「……ならちょっとかしてみろ」
また袂にしまおうとするちづるの手から受け取った栗に、としぞうは縦に一筋パキッと割れ目を入れてやり    
「ほら、これならおまえが先生に剥いてあげられるだろ?」
「へぇ。さすがしょっちゅう子守を押し付けられてるだけあって、こいつの扱い慣れてるねぇ」
「……うるせぇ」

そんなやりとりしている二人の目の前で、ちづるは栗を戻した袂にそっと触れながら幸せそうに笑っていた。



【 完 】











※アイコン以外のサイト内画像の無断転載はご遠慮願います
No reproduction or republication.without written permission.











Copyright (C) 2010 Yorname. All Rights Reserved.