novel-hari
【 誕生日おめでとう 】
もう間もなく新年の記念撮影をするのだが支度部屋の片隅で先程から『そうじ』が『はじめ』に何やら確認をしている。
「ねぇ、はじめくん?……もう一度聞くけどさ、本当に花それひとつだけでいいの?」
「……構わない」
「ふ〜ん……ま、はじめくんが何個持とうが僕が持つ分は変更なんてしないけどね」
そうじに何度聞かれても
写真館の主人に『もう少し持った方が左右バランスがいいんですけどね』と言われても
はじめは最初に手にした一輪以外、決して他の花に手を出そうとしない。
『……これは他のと違う』
はじめは右手に持った椿を大切そうにそっと左手で撫で上げた。
◇◆◇
「総司!斎藤!おまえら庭に咲いてる椿をいくつか取ってこい」
「……何故そのような?」
「写真屋のおやじが言うにはな、椿を髪に挿して撮ったら華やいでいい感じの写りになるんだとよ」
急に持ちかけられた突拍子もない話に、いくら土方の言葉とはいえ斎藤もさすがにすぐには従えない。
案の定沖田などは早速不満の意を唱える。
「嫌ですよ髪に花を飾るなんて。だったら土方さんやればいいじゃないですか」
「散々話し合っておまえらに決まったんじゃねぇか。ぐずぐず言ってねぇで千鶴とチビ助達の分も摘んできやがれっ!」
ここで土方はキメのひと言を口にする。
「総司……近藤さんがなその話聞いた時『ほぉ椿なら総司にもよく似合いそうだ』っつってたぞ」
その言葉にサッと立ち上がり中庭へと降り立つ沖田。
「悪いな、斎藤。後は頼むぞ」
土方に改めて頼まれてしまえば断れるはずもなく、斎藤も仕方なく腰をあげた。
「総司……それは少々摘み過ぎなのでは?」
「えー、そんな事ないでしょ?これが千鶴ちゃんの分でしょ?でそっちがあの子達の分
「お待たせしました」
その声に二人揃って振り返ると、千鶴が振袖に着替えて恥ずかしそうに立っている。
春を感じさせるような暖かい色合いの振袖が彼女にとてもよく似合っている。
「あ、千鶴ちゃんその髪……」
「はい君菊さんがこの方がいいって髪も結ってくださったんです」
振袖に合わせた色調の結い紐で彼女の髪は飾られている
「ま、これはこれで可愛いんだし僕達が挿してれば土方さんも文句ないでしょ」
そういうと沖田は摘み終えた花を手に、そうじとはじめの待つ部屋にスタスタと歩いていった。
「椿なんか摘んでどうするんですか?」
「俺達の髪に挿せとの副長命令だ」
「…………」
何と言って返したら良いのか判らない千鶴の様子に笑みを浮かべると
「写真を撮る間の話だけだ、あんたは気にする必要ない。それより……その着物、似合っている」
「あ、ありがとうございます」
「いや……」
斎藤はとても言いづらそうにしながら伝え終えると、目についた一輪を摘み沖田の後を追った。
斎藤が部屋に入ると、そうじが沖田の摘んできた花を自分の周りに並べて満足そうに微笑んでいる光景が目に入った。
はじめはというと、所在なさげにその傍にポツンと静かに立っている。
「あー斎藤君いい所に来た。そうじが僕の摘んできた花全部自分で持つってきかなくて。だからはじめの分摘んできて」
そう言いながら『はい、これは斎藤君の髪に挿す分ね』と一輪だけ手渡してきた。
状況からみて自分達の髪に挿す分しか手元に残せなかったのだろう。
「……はじめ、来い」
その声に寄ってきたはじめを肩に乗せ、再び中庭へと向かう。
部屋を出たところで、斎藤は摘んできた一輪をはじめに手渡した。
「これは……?」
「……誕生日だからな」
「…………」
「どうした?」
「……中庭には行かない、これだけでいい」
「……そうか」
◇◆◇
「ねぇ、本当にそれしか持たないの?」
「くどいぞそうじ。……花はこれ一輪で十分だ」
千鶴の腕の中で繰り返されるもう何度目かのやり取り。
大切そうに手にした椿をそっと抱え直すはじめの様子に千鶴が口を開いた。
「はじめくんの持っている椿は色が濃くてすごく綺麗ね」
自分達を抱きかかえる千鶴に言われ、はじめが嬉しそうに口元を綻ばせる。
「ちょっと千鶴ちゃん、どちらか一方だけにそういう事言わないでくれる?大変なのは僕らなんだからさ」
沖田の言葉に慌てて千鶴はそうじにも声を掛ける。
「そうじくんが持っているのはどれも色が鮮やかね」
千鶴の言葉に満足そうな彼らを見て、やれやれとため息を吐く沖田と斎藤。
熱い照明で照らされながらただじっとしているだけの写真撮影も何とか無事に終了し、
「ねぇ斎藤君、はじめは何であの一輪にあんなにこだわってたの?」
「……さぁな」
曖昧に言葉を濁すと、斎藤は支度部屋を後にした。
「最近はじめが斎藤君に似てきてるんだよね」
斎藤の後姿に呟いた沖田は、それが自分達にも当てはまる事には気付いていなかった。
◆
「……はじめ、入るぞ」
はじめの待つ自分達の部屋に入ると、そこでははじめが転寝(うたたね)をしていた。
眩しい灯りに散々照らされての慣れない写真撮影で疲れたのだろう……腕にはまだあの椿を抱え込んでいる。
このままでは花が早くに傷んでしまうだろう。そもそもこの体勢では身体が十分に休まらない。
それでも大切そうに抱えて眠る無邪気な寝顔に、斎藤はフッと小さく笑みを浮かべた。
そっと腕から外した花を枕元に置いて、上から布団を掛けてやる。
「……誕生日おめでとう、はじめ」
先程伝えた言葉を繰り返す。
【 終 】
このお話は、武藤さんの2009年賀正イラストとこちらのイラストからイメージして書きました。
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