novel-hari
【すないぱあ見習い ちづる】
プッ
「んー惜しい!あと一歩ってとこなんだけどよ」
続けてしんぱちが口から飛ばした柿の種は、ピシッと庭の松の木に音を立ててぶつかったあとどこかへ弾け飛んでいった。
「すごーい!」
「口から出す瞬間に力を入れるのがコツだな」
ちづるにきらきらと尊敬の眼差しで見上げられ、しんぱちは照れ臭そうに頬を掻く。
「俺、今から道場の稽古見せてもらいに行くけど。ちづるちゃんはまだやってくのか?」
「はい!」
「そっか。じゃあくれぐれも障子に穴なんか開けちまわねぇように気をつけろよ。山南さんや土方さんに見つかったら物凄く怒られるからな」
以前夏の暑い盛りに、屯所中の障子を張替えさせられた経験を持つしんぱちは、その時の苦しかった事が忘れられないのか強く強く念を押す。
「はい!障子にぶつけないように気をつけます!」
ちづるの気持ちよい返事に満足そうに頷いて、しんぱちは永倉や平助の稽古している道場へと駆けて行った。
ひとり残った縁側で、ちづるは着物の袂をごそごそと漁る。コロリと取り出したのは柿の種。
勢いよく口から飛ばす事の出来るしんぱちが何だか格好良く見えて、去年の秋からおやつに柿が出る度にこっそり残しておいたのもの。
庭に向かって飛ばしては、もうそれきり使えなくなってしまう。これが部屋や廊下なら、きれいに洗えばもしかして……。
どこか空いている練習に使えそうな部屋はないものか。ちづるはトテトテと縁側を歩きながら色んな部屋を見て回る。
「あった!」
意外にもそこは広間。昼食を済ませた幹部達は各々自分の部屋に戻ったりどこか外へ出かけたり
プッ コツッ トテトテトテ……プッ コツッ トテトテトテ……
左の袂から出した種をプッと飛ばしては、拾いに走って右の袂にコロンと入れまた元の場所に戻る。
何度も何度も繰り返しているうちに、今までより僅かにだが勢いよく飛ばせるようになってきた。
あともう少し。
このまま練習すれば、明日にはしんぱちに褒めてもらえる位まで上手になれるかもしれない。
上手くなった所をみてもらいたい
ズボッ
こんな時に限って、今までで一番上手に出来てしまったのはなぜだろう。口から飛び出した種は、障子を突き破って縁側に。
「種!」
もうおやつに柿が出なくなってしまった今となっては、柿の種はたったひとつでも貴重な物。ちづるは慌てて縁側に飛び出した。
縁側の中ほどに落ちていたそれを大切そうに右の袂にしまいこみ、いざ広間に戻ろうとして
「あ……っ」
障子に開いた、ちょうど柿の種ひとつ分の大きさの穴。あれほどしんぱちから気をつけるように言われていたのに
ちょうどその時、ちづるは縁側の向こうからこちらに向かって歩いてくるそうじやはじめ、さのすけ達の姿に気が付いた。
とりあえず何とかこの場は誤魔化さねば。咄嗟にちづるは破れた穴を隠すように障子の前に座り込んだ。
「あれ?ちづるちゃん、こんな所で何やってるの?」
「……何もしてません」
いつも明るくハキハキしている彼女が、今日はどうも歯切れが悪い。そうじと顔を見合わせたさのすけが、続けて優しく声を掛ける。
「日向ぼっこか?今日は天気が良いからな」
縁側に降り注ぐ柔らかい陽の光をちづるは今気が付いたという風に眩しそうに見上げた。
「ねぇ……きみ何か隠し事してない?」
そうじがちづるの背後を覗き込もうと横に回る。ここで見られては一大事!とちづるが障子に更に身を預けたのと同じ頃。
「………………」
二人がちづるに話しかけている間に、障子の隙間から広間の中へ入っていたはじめは、障子の穴に目を瞠っていた。
ちづるがそうじに見つかるまいと身体を障子に押し付けた拍子に穴は更に広がって、彼女のパフパフした尻尾がぷりんとそこから顔を覗かせている。
「そっちで何か面白い物でも見つかった?」
自分に掛けられた声にハッとはじめが顔を上げると、ちづるに根負けしたそうじがちょうどこちらに入ってくる所だった。
反射的に障子の前に座り込み、はじめはそうじから目を逸らす。
「少しくたびれた。……俺はここで休んでいく」
あまりに不自然な言い訳に、そうじの目がスッとまるで新月のように細くなる。一方縁側では、
「ちづる……隠し事は良くねぇから言っちまえ」
さのすけに宥められたちづるが、観念して障子の前で立ちあがっていた。
「あっ!」
「おいおい……」
縁側にいるちづるとさのすけが見たもの
「こりゃ山南さんにでも見つかっちまったら怒鳴られるだろうな……」
(大変、このままでは“はじめさんが”山南さんに叱られちゃう!)
普段何かと良くしてくれるはじめに、こんな時こそ恩返しをしなくては。
元はと言えば自分で開けてしまった穴なのに、そんな事もすっかり忘れ、ちづるは今も尚『どいてみてよ』『いや、どかない』の攻防を繰り返す障子の内側に回りこむ。
「今、千鶴ちゃんにお願いして紙もらってきます!」
「「……?」」
「すぐ戻ってきますから、それまで絶対ここから動いたら駄目ですよ!」
「おい、ちょっと待て
はじめの言葉を聞かないまま、ちづるはタァッと走り出した。早く早く……山南さんに見つかる前に穴を塞ぐ紙を貰ってこなくては。
「お前が怒られないようにってか」
「あの子、この穴自分で開けたんだってすっかり忘れちゃってるよね。はじめくん『俺じゃないだろ』ってそこはちゃんと言わないと」
「…………」
ちづるが息せききって紙を貰いに走っている頃、縁側にはみ出た尻尾を二人に弄ばれながら、
『今年こそ、もっと自分の言わなくてはいけない事はちゃんと言おう』
新年早々はじめは強く思うのだった
【 終 】
『しんぱちとかへーすけって種をブブブブッ!!って飛ばすの絶対うまいよ』
そんなやりとりから生まれた小噺です。武藤さんのお誕生日に押し付けてみました φ(⌒▽⌒〃)
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