UUTT * Side_Hari

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【 完全無欠 】





風呂に長く浸かり過ぎたへーすけがのぼせた頭を縁側で冷やしている所へ、はじめが斎藤と一緒に外から戻ってきた。
「はじめ君まだ風呂入ってなかったのか」
「ああ。稽古を見学していた」
「源さんがもう俺ら全員入ったと思って水足してるからさ、急いだ方が良いんじゃねぇの?」



夏も盛りの頃は常に誰かが井戸の水を汲み上げていたと言っても過言ではないほど、暑いと言っては水を浴び、汗を掻いたと言っては水を浴びていたのだが。
    季節はもう秋。さすがに冷たい井戸の水ではもう寒い。
屯所の風呂では夕方少なめにお湯を張り、まずは彼らが入浴する事になっていた。

巡察や稽古から隊士達が帰ってくるより前に入るというのが、山南との約束。
約束の時間を過ぎると後は大人が肩まで浸かれるようお湯をたっぷり張られてしまう。
自分達だけなら飛び込んだり素潜りをして楽しむのだが、一般隊士が多数一緒となればそうふざけてばかりもいられない。

『おとなしく湯に浸かってりゃいいんだろ?そんなのお安い御用だぜ!』

入浴の時間を気にして遊ぶのなんて真っ平ご免。風呂は自分の行きたい時に行く     最初のうちこそ鼻息を荒くしていたしんぱちだったが、いざおとなしく入ろうとすると、深い湯船ではどうやって湯に浸かっていれば良いのか分からない。
風呂桶の縁にでも掴まれれば何とか身体が温まるまで浸かっている事も出来るのだが、出入りの多い屯所の風呂では場所を譲らず居続けるのは難しい。
次々入ってくる隊士に押され気付けば湯船の真ん中。
必死に立ち泳ぎで耐えた結果、その日夜遅くまでこむら返りに苦しまされた彼の記憶は、思い出と呼べる程まだ遠くない。

身をもって痛みを知ったしんぱちと、苦しむ姿を見せつけられて学んだ彼ら。
以来大人達に気兼ねせず入る為、彼らは遊ぶ時間が削れるのも厭わず、山南との約束の時間に入浴するよう心がけていた。



「なぁ、はじめ君」
「……大丈夫だ」
心配して声を掛けるへーすけに頷いてみせると、はじめは斎藤と一緒に風呂場へ向かった。
その落ち着いた後姿に、へーすけを捜して縁側に出てきたさのすけが口を開く。

「たまには斎藤と一緒に入りてぇんじゃねぇか?」
「えー……俺も平助と一緒に入りたいけど、しんぱっつぁんみたいに足が攣るのなんて絶対やだ!」
「そうだぞ、ありゃ痛ぇなんてもんじゃなかったからな。おまえら実験体になった俺に感謝しろよ?」
「……てめぇが勝手に意地張ってた結果じゃねぇか」
「それにしたって、はじめ君はスゲェよなぁ……」

大人びた言動
物静かな立ち振る舞い
本当に彼は自分達と歳が近いのかと首を傾げたくなってしまう。

「あいつ苦手なモンとかあんのかよ」
「さぁな。俺らみてぇに山南さんや土方さんに怒られる事も滅多にねぇしな」
斎藤達の姿が見えなくなった廊下から視線を戻してへーすけがしみじみ言った言葉に、他の二人も同調する。

この時、風呂場ではじめが身を震わせて怯えているとも知らず    


◇◆◇


「目を閉じた方が良い」
「……ああ」
「かけるぞ?」
「…………」
「?」
はじめから反応が返ってこないことを不思議に思い、斎藤がそっと横から覗き込む。
「………………」
見ればギュッと固く目を瞑り、耳をペシッと両手で押さえつけている。これでは斎藤の声は聞こえない。
「……いくぞ」
聞こえるはずのないはじめに優しく声を掛けてやると、斎藤は湯の入った手桶をそっと静かに傾けた。


泳ぐのは好き。井戸の周りで水を浴びるのも好き。
水なら全然気にならないのに、椅子に腰掛けて頭から湯をかぶるのがどうも苦手。
完全無欠かとへーすけ達に思われているはじめの、唯一苦手としているのが『洗髪』。
斎藤と一緒の時間を選んで風呂に入っている本当の理由はここにあった。

それでも、洗髪が苦手なままなのは情けないし悔しい。
仲間にもいつまでも隠し通せるものではないからと、はじめは少しずつ自分でも洗えるように練習していた。
頭上から落ちてくるお湯が途切れるのを見計らって、恐る恐る耳を押さえていた手を離して髪を撫でる。
いつかは最初から最後までひとりで出来るようになりたいと思いながら、

チャプッ

斎藤が湯を汲む音を聞いて、はじめはまた慌ててギュッと固く目を瞑った    



「万が一あいつがこむら返りを起こしたら、俺が松本先生に教わったやり方で治してやる!」
「しんぱっつぁん頼もしいじゃん!」
「だな。たまにゃイイ事言うじゃねぇか」
「だろ?……って、たまにじゃねぇぞいつもだいつも!」
そんな風に縁側で心配されているとも知らず。

「熱くはないか?」
「……大丈夫だ」
今日も無事洗髪を済ませたはじめは、斎藤が湯の中で支えている桶に腰掛けて、満足そうにのんびり入浴を楽しんでいた。



【 終 】







このお話は、武藤さんの描いた水に怯えるはじめを見て書きました。
はじめの事だから、きっと皆が気付く前に     勿論ちづるが屯所に来るようになる前に、この苦手は克服してしまうんだと思います(´ω`*)














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